スポンサーリンク
日本国憲法の基本的人権は、
私人間にも適用されるかどうかでも有名な判例です。
私人間の効力について、間接適応説を採用しています。
【事件の概要】
昭和38年3月大学を卒業したXは、
三菱樹脂株式会社に3ヶ月の試用期間として採用されました。
しかし、試用期間中に、入社試験の際の身上書及び面接で、
学生運動に参加していたにも関わらず、
これを秘匿する虚偽の申告をしていたことが判明したため、
会社側は、試用期間終了後の本採用を拒否しました。
このため、Xは従業員たる地位の確認を求めて争いました。
スポンサーリンク
【判決の概要】
憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、
憲法22条、29条等において、財産権の行使、
営業その他の経済活動の自由をも基本的人権として保障しています。
ですから、企業は経済活動の一環としてする契約締結の自由があり、
自己の営業のために労働者を雇用する際に、誰を雇い入れるか、
どのような条件で雇うかについて、法律その他による特別な制限が無い限り、
原則として自由に決定できるのであって、
企業が特定の思想、信条を有する者をそれを理由として雇い入れることを拒んでも、
当然に違法とすることはできません。
労働基準法3条は、
労働者の信条によって賃金その他の労働条件につき差別することを禁じています。
しかし、これは、雇い入れ後における労働条件についての制限であって、
雇い入れそのものを制約する規定ではありません。
企業が雇用の自由を有し、思想、信条を理由として雇い入れを拒んでも、
これを違法とすることができない以上、企業が、労働者の採否決定にあたり、
労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項について、
申告を求めることも法律上禁止された違法行為とすべき理由はありません。
【労働基準法3条(均等待遇)】
使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
【労働基準法3条の解説】
「信条」とは、特定の宗教的信念または政治的信念のことです。
「社会的身分」とは、生来の身分のことです。
本条では、性別による差別については規定されていませんが、
労働基準法4条(男女同一賃金の原則)や男女雇用機会均等法に禁止が規定されています。
【まとめ】
労働者の採用にあたり、企業の側は採用の自由があり、誰を採用するかの決定に、
その人の特定の思想、信条を理由として採用を拒んでも違法といえません。
しかし、一旦採用した後は、労働基準法3条の規定により、
特定の思想、信条を解雇理由にすることは違法となります。
【関連判例】
→「大日本印刷事件と採用内定」
→「神戸弘陵学園事件と試用期間」
→「炭研精工事件と経歴詐称」
→「慶応病院看護婦不採用事件と採用の自由」
→「かなざわ総本舗事件と労働契約締結の準備段階での過失」
→「わいわいランド(解雇)事件と労働契約締結における信義則違反」
→「ユタカ精工事件と契約締結過程の損害回避義務」
→「KPIソリューションズ事件と労働者の申告義務」