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労働者の新規採用契約において、
その適正の評価判断のために設けられた期間の性質と、
試用期間付雇用契約の法的性質はどうのようなものなのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、昭和59年4月付で私立Y校に社会科担当の教員(常勤講師)として採用されました。
Xは面接の際にY校の理事長から、採用後の身分は常勤講師とし、
契約期間は一応同年4月1日から1年間とすること及び1年間の勤務態度を見て、
再雇用するかどうかの判定をすること等について説明され、
口頭で採用の旨の申し出を受けました。
Xは、1年間の期限付きの非常勤講師の採用内定を受けていた他の学校への就業を辞退し、
Y校からの採用の申し出を受諾しました。
また、Xは同年5月中旬ごろ、Y校から求められるままに、
同年4月7日ごろにあらかじめY校から交付されていた、
「Xが昭和60年3月31日までの1年の期限付の常勤講師としてYに採用される旨の合意が
XとYとの間に成立したこと及び右期限が満了したときは、
解雇予告その他何らの通知を要せず期限満了の日に当然退職の効果を生ずること」
などが記載されている期限付職員契約書に、自ら署名捺印しました。
そして、Y校は昭和60年3月18日に、
同月31日をもって期間満了を理由とする雇用契約の終了を通知しました。
そのため、Xは、雇用契約終了の通知の無効を争いました。
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【判決の概要】
使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、
その趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、
その期間の満了により雇用契約が当然に満了する旨の明確な合意が、
当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、
その期間は契約の存続期間ではなく、試用期間であると解するのが相当です。
そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、
試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本契約手続きの実態等に照らして、
これを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と、
同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取り扱いにも格段変わったところはなく、
また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続きが、
採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、
これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当です。
そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、
客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるのであって、
通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められるが、
試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、
本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合に限られます。
本件の雇用契約の際に、1年の期間の満了により本雇用契約が当然に終了する旨の、
明確な合意がXとYとの間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることは、
疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るにも関わらず、
本件雇用契約に付された1年の期間を契約の存続期間であるとし、
本件雇用契約は1年の期間の満了により終了したとした原判決は、
雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、
理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、
その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかです。
したがって、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れません。
【まとめ】
労働者の新規採用契約において、その適正を評価・判断するための期間を設けた時は、
その期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立している等の、
特段の事情が認められる場合を除き、その期間は契約の存続期間ではなく、
試用期間と解するのが相当です。
そして、試用期間付雇用契約によって雇用された労働者が、
それ以外の労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取り扱いも格段変わりなく、
試用期間満了時に本採用に関する契約書の作成の手続きが採られていない場合には、
特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約と解するのが相当です。
【関連判例】
→「三菱樹脂事件と均等待遇」
→「雅叙園観光事件と試用期間の延長」
→「ブラザー工業事件と長期の試用期間」
→「テーダブルジェー事件と試用期間中の解雇」
→「三井倉庫事件と試用期間中の解雇」
→「ブレーンベース事件と試用期間中の解雇」
→「新光美術事件と本採用拒否」
→「ニュース証券事件と試用期間途中の解雇」
→「医療法人財団健和会事件と試用期間途中の解雇」