細谷服装事件と解雇の予告

(最二小判昭35.3.11)

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使用者が予告期間をおかず、または、予告手当の支払いをしないで、

労働者に解雇の通知をした場合の効力はどうなるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、洋服の製造・修理を行うY社に雇用されていました。

昭和24年8月に、Y社はXに対して一方的に解雇を通知しました。

このとき、Y社は労働基準法20条で義務付けられている予告期間をおかず、

また、予告手当の支払いもしませんでした。

そこで、Xは、8月分の未払い賃金と退職金の支払いを求めて提訴したところ、

一審の口頭弁論終結日である昭和26年3月19日に未払い賃金と予告手当が、

Y社からXに支払われましたが、裁判ではXが敗訴してしまいました。

Xは、控訴審で、Y社が未払い賃金と予告手当を支払った昭和26年3月19日までは、

解雇の効力は発生していないと主張し、

その間の賃金の支払いと労働基準法114条に基づいた付加金の支払いを求めました。

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【判決の概要】


使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払いをしないで、

労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としての効力は生じませんが、

使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、

その通知は通知後同条所定の30日の期間を経過するか、

または通知後に同条所定の予告手当の支払いをしたときは、

そのいずれかのときから解雇の効力を生じるものと解すべきであって、

本件解雇の通知は30日の期間経過と共に、

解雇の効力が生じたものとする原判決の判断は正当です。

労働基準法114条の付加金の支払い義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、

当然に発生するものではなく、

労働者の請求により裁判所がその支払いを命じることによって、

初めて発生するものと解すべきです。

ですから、使用者に労働基準法20条の違反があっても、

すでに予告手当に相当する金額の支払いを完了し、

使用者の義務違反の状況が消滅した後においては、

労働者は同条による付加金の請求の申し立てをすることはできません。

【労働基準法20条(解雇の予告)】


使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。

◯2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

◯3 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。

【労働基準法114条(付加金の支払)】


裁判所は、第二十条、第二十六条若しくは第三十七条の規定に違反した使用者又は

第三十九条第七項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、

これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、

これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。

ただし、この請求は、違反があった時から二年以内にしなければならない。

【労働基準法20条の解説】


以下の場合は、解雇予告が除外されます。

●天災事変その他やむを得ない事由により事業の継続が不可能となり、

 所轄の労働基準監督署長の認定を受けたとき

●労働者の責めに帰すべき事由によって解雇するときで、

 所轄の労働基準監督署長の認定を受けたとき
 (この認定は、労働者に対して解雇の意思表示をする前に受けておく)

●日々雇い入れられる者
 (一ヵ月を超えて引き続き使用されている場合には、
  解雇予告又は予告手当の支払いが必要)

●二ヵ月以内の期間を定めて使用される者、
 または季節的業務に四ヵ月以内の期間を定めて使用される者
 (契約期間を超えて引き続き使用される場合には、
  解雇予告又は予告手当の支払いが必要)

●試用期間中の者
 (14日を超えて引き続き使用される場合には、
  解雇予告又は予告手当の支払が必要)

【まとめ】


使用者が予告期間をおかず、または予告手当の支払いをしないで、

労働者に解雇の通知をしたときの効力について、この事件では、

最高裁は相対的無効説を採用しました。

この考え方によれば、労働基準法20条に違反して行われた即時解雇は、

使用者が即時解雇に固執している場合は無効となりますが、

固執していない場合には、同条所定の予告期間の30日経過するか、

または同条所定の額の予告手当が支払われたときには、

解雇の効力が生じることになります。

【関連判例】


「東洋特殊土木事件と解雇の予告」
「セキレイ事件と解雇予告手当」
「学校法人専修大学事件と打切補償」