日本勧業経済会事件と賃金の全額払い

(最大判昭36.5.31)

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労働者が有する賃金債権に対して、

使用者が当該労働者に対して有する反対債券をもって、

使用者側からの一方的な相殺は許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、Y社に勤めていましたが、Y社が倒産してしまいました。

そこで、Xは、Y社に対して、未払い賃金の支払いを求めました。

しかし、Y社はXの会社に対する背任行為があり、

これによるXに対する損害賠償請求権と、Xが主張する賃金債権を相殺すると主張し、

未払い賃金の支払いを拒否しました。

そこで、Xは、未払い賃金の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、

これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、

労働政策の上から極めて必要なことです。

労働基準法24条1項が、賃金は同項但書の場合を除き、

その全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも、

先ほどの趣旨をその法意とするものというべきであるからです。

そうであるなら、同条項は、労働者の賃金債権に対しては、

使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって、

相殺することを許さない趣旨を包含するものと解するのが相当です。

このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりません。

【労働基準法24条(賃金の支払)】


賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

◯2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)についてはこの限りでない。

【労働基準法24条の解説】


賃金の支払いは、①通貨で、②直接本人に、③全額を、④毎月1回以上、

⑤一定期日を定めて支払うという、賃金支払いの5原則があります。

「通貨払い」について、労働者の同意を得て、

指定された銀行口座に振り込みによる支払いはできます。

また、銀行振り込みについては、振り込まれた賃金全額が賃金支払日に、

払い出しが可能である必要があります。

「直接払い」については、労働者の親権者やその他の法定代理人、

任意代理人に支払うことはできません。

ただし、労働者本人と同一視できる使者に対しての賃金の支払は可能です。

【まとめ】


今回の事案は「全額払い」に関してのものですが、

労働者が有する賃金債権に対して、使用者が当該労働者に対して有する反対債券をもって、

相殺することができるかという問題は、

賃金を確実に労働者に受領させるという趣旨を重視して、

使用者側から一方的に相殺することは許されないとしています。

【関連判例】


「福島県教組事件と賃金の過払い」
「日新製鋼事件と労働者の同意に基づく相殺」
「シンガー・ソーイング・メシーン事件と債権放棄の意思表示」
「エッソ石油事件とチェック・オフ」
「小倉電話局事件と賃金債権の譲渡」