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本来の業務の準備行為や後片付けは、
労働基準法上の労働時間といえるのでしょうか。
【事件の概要】
Y社では、完全週休二日制の実施にともなって、
就業規則を変更して、所定労働時間を1日8時間と定めました。
また、勤怠把握は、始業時に更衣を済ませて所定の場所にいるかどうか、
就業時に作業場にいるかどうかを基準とすることになりました。
そのため、更衣所で作業服や保護具等を装着して準備体操場までの移動、
始業時刻前の副資材等の受出し及び散水に要する時間、
就業時刻後に作業場から更衣所まで移動して作業服や保護具等を離脱する時間など、
これらの時間は労働時間として扱わないことになりました。
そのため、XらはY社に対して、当該行為に要する時間は、
労働基準法上の労働時間に当たるとして、
1日8時間を超える時間外労働に対する割増賃金を求めました。
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【判決の概要】
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間(以下「労働基準法上の労働時間」という。)とは、
労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、
労働行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、
労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではありません。
労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、
当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、
当該行為は、特段の事情がない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、
当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、
労働基準法上の労働時間に該当します。
本件の事実関係によれば、Xらは、Y社から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、
また、装着を事業所内の所定の更衣所において行うものとされていたというのであるから、
装着及び更衣所等から準備体操場までの移動は、
Y社の指揮命令下に置かれたものと評価することができます。
また、Xらの副資材等の受出し及び散水も同様です。
さらに、Xらは、実作業の終了後も、更衣所等において作業服及び保護具等の離脱等を終えるまでは、
いまだY社の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、各行為に要した時間は、
社会通念上必要と認められるものであるので、労働基準法上の労働時間に該当します。
【労働基準法32条(労働時間)】
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
◯2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
【労働基準法32条の解説】
下記の業種で、常時使用する労働者が10人未満の場合、
1週44時間まで労働時間が認められます。
●卸売・小売・理美容などの商業
●映画・演劇場
●病院・保育園などの保健衛生業
●旅館・飲食店など接客娯楽業
【まとめ】
労働基準法上の労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が、
使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるかどうかにより、
客観的に定まるものです。
労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、
又はこれを余儀なくされたときは、その行為を所定労働時間外に行うものとされている場合でも、
その行為は、特段の事情がない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき、
その行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、
労働基準法上の労働時間に該当します。
【関連判例】
→「大星ビル管理事件と仮眠時間」
→「阪急トラベルサポート事件とみなし労働時間」
→「大林ファシリティーズ事件と不活動時間」
→「京都銀行事件と黙示の指示による労働時間」
→「JR東日本(横浜土木技術センター)事件と1か月単位の変形労働時間制」