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労働者の休憩時間の自由利用の原則に反して、
使用者によって制約される場合はあるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、公社であるYに勤務していましたが、昭和42年6月16日から22日までの間、
「ベトナム侵略反対・米軍立川基地拡張阻止」と書かれたプレートを着用して勤務しました。
YはXに対して、プレートを取り外すように再三注意しましたが、
Xはこれに従わず、Yに対する抗議の目的で、同月23日にYの管理者の許可を得ないで、
休憩時間中に職場内の休憩室と食堂において、抗議のビラを数十枚配布しました。
Yの就業規則には、「職員が職場内で演説やビラ配布等のを行う場合には、
事前に管理責任者の許可を受けなければならない。」という規定があり、
Yは、Xのビラ配布が就業規則に反し、懲戒事由に該当するとして、
Xを戒告処分に付しまいした。
そこで、Xは、このような規定は、
労働基準法34条3項に規定する休憩時間の自由利用の原則に違反し、
無効であると主張しあらそいました。
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【判決の概要】
雇用契約に基づき、使用者の指揮命令、監督のもとに労務を提供する従業員は、
休憩時間中は、労基34条3項により、使用者の指揮命令権の拘束を離れ、
この時間を自由に利用することができ、
もとよりこの時間をビラ配り等のために利用することも自由であって、
使用者が従業員の休憩時間の自由利用を妨げれば労基法34条3項違反の問題を生じ、
休憩時間の自由利用として許される行為をとらえて懲戒処分をすることも許されないことは当然です。
しかし、休憩時間の自由利用といってもそれは時間を自由に利用することが認められたものにすぎず、
その時間の自由な利用が企業施設内において行われる場合には、
使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規制による制約を免れることはできません。
また、従業員は労働契約上企業秩序維持を維持するための規律に従うべき義務があり、
休憩中は労務提供とそれに直接付随する職場規律に基づく制約は受けないが、
企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は免れません。
しかも、公社就業規則5条6項の規定は休憩時間中における行為についても適用されると解されるが、
局所内において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、休憩時間中であっても、
局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、更に、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げ、
ひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあって、
その内容いかんによっては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるから、
これを局所管理者の許可にかからせることは、合理的な制約ということができます。
本件ビラの配布は、その目的及びビラの内容において上司の適法な命令に対し抗議するものであり、
また、違法な行為をあおり、そそのかすようなものであって以上、休憩時間中であっても、
企業の運営に支障を及ぼし企業秩序を乱すおそれがあり、許可を得ないでその配布をすることは、
公社就業規則5条6項に反し許されるべきものでないから、
これをとらえて懲戒処分の対象としても、労基法34条3項に違反するものではありません。
【労働基準法34条(休憩)】
使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少なくとも四十五分、八時間を超える場合においては少なくとも一時間の休憩を労働時間の途中に与えなければならない。
◯3 使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
【労働基準法34条の解説】
休憩時間の付与の方法として、まとめて付与する必要はなく、
分割して与えてもかまいません。
休憩は、労働時間の途中に与えなければならないので、
始業後すぐや終業直前に休憩を与えることは、労働時間の途中とはいえません。
休憩時間中の外出について、所属長の許可を受けさせることは、
事業場内において自由に休憩できる場合は、必ずしも違法とはなりません。
【まとめ】
労働者が、企業施設内で休憩する場合には、
使用者の企業施設の管理や企業秩序維持の要請に基づく規律による制約は認められます。
【関連判例】
→「大成観光(ホテルオークラ)事件とリボン闘争」
→「明治乳業事件と無許可でのビラ配布」
→「バイエル薬品事件と職場規律違反」
→「わかしお銀行事件と非違行為」
→「崇徳学園事件と非違行為」
→「長野電鉄事件と企業の風紀を乱す行為」
→「豊橋総合自動車学校事件と企業の風紀を乱す行為」
→「小川建設事件と労働者の二重就職」
→「東京メディカルサービス事件と無許可の兼業」
→「十和田運輸事件とアルバイト」
→「都タクシー事件とアルバイト」