フジ興産事件と就業規則の周知

(最二小判平15.10.10)

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就業規則を労働者代表の同意を得て、所轄行政官庁に届出をしたが、

その内容を労働者に周知していなかった場合の、

当該就業規則の効力はどうなるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、Yの設計部門であるエンジニアリングセンターで、

設計業務に従事していました。

Yは、昭和61年に労働者代表の同意を得た上で就業規則を作成し、

所轄労働基準監督署に届け出ました。

平成6年4月から就業規則を変更し、新しい就業規則を実施することにし、

同年6月に労働者代表の同意を得た上で、所轄労働基準監督署に届け出ました。

これら新・旧就業規則には、懲戒解雇事由を定めて、所定の事由があった場合には、

懲戒解雇できる旨を定めました。

Xは、得意先の担当者の要望に十分応じず、トラブルを発生させたり、

上司の指示に反抗的な態度をとり、暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したことを理由に、

懲戒解雇処分を受けました。

Xは、本件懲戒解雇以前に、エンジニアリングセンターに勤務する労働者に適応される就業規則について質問したが、

旧就業規則は、Yの本社には存在するが、エンジニアリングセンターには備え付けられていませんでした。

そこで、Xは、エンジニアリングセンターの労働者に適応される就業規則が備え付けられていなかったこと等を理由に、

本件懲戒解雇処分の無効を争いました。

原審では、本件懲戒解雇の根拠となるのは旧就業規則であるとし、

旧就業規則がエンジニアリングセンターに備え付けられていなかったとしても、

同センター勤務の労働者に効力を有しないということはできず、

懲戒解雇は有効であると判断しました。

それに対して、Xは上告しました。

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【判決の概要】


使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において、

懲戒の種別及び事由を定めておくことを要します。

そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、

その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきです。

原審は、Yが労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、

これを所轄労働基準監督署長に届け出た事実を確定したのみで、

その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないまま、

旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇が有効であると判断しています。

原審のこの判断には、審理不尽の結果、法令の適用を誤った違法があり、

その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかです。

【労働基準法89条(就業規則の作成及び届出の義務)】


常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

【労働基準法90条(就業規則作成の手続)】


使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

◯2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

【労働基準法106条(法令等の周知義務)】


使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第七項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び第五項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。

◯2 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

【労働基準法施行規則52条の2】


法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。

一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

二 書面を労働者に交付すること。

三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

【まとめ】


就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、

拘束力を生ずるためには、

その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることが必要です。

そのため、労働者に周知させる手続きが採られていない場合は、

効力を有しません。

【関連判例】


「秋北バス事件と就業規則の不利益変更」
「国鉄札幌運転区事件と労働者の施設利用」
「日本HP(ヒューレット・パッカード)事件と精神的不調による欠勤」
「関西電力事件と使用者の懲戒権」
「富士見交通事件と懲戒当時に使用者が認識していた非違行為」
「明石運輸事件と就業規則と労働協約の関係」
「日音事件と就業規則の周知」
「中部カラー事件と就業規則の周知」
「シンワ事件と事業場の過半数代表者の意見聴取義務」