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使用者が所有し管理している物的施設を、
使用者の許可を得ることなく使用した労働組合員に対して、
就業規則所定の処分をすることができるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、国鉄Yの職員であり労働組合員でした。
Yは、組合掲示板以外の施設へのビラ貼付けを禁止していましたが、
Xは、日常使用することが許されているロッカーに労働組合のビラを貼りました。
これに対して、駅助役らが再三注意をし、ビラをはがすように促したが、
Xは、これに応じませんでした。
Yの総裁は、Xの行為は就業規則66条3号(「上司の命令に服従しないとき」)及び、
17号(「その他著しく不都合な行いのあつたとき」)に規定する事由にあたるとして、
日本国有鉄道法31条の規定に基づいて戒告処分にしました。
そこで、X者は、処分の無効を主張し争いました。
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【判決の概要】
企業は、その存立を維持し目的たる事業の円滑な運営を図るため、
それを構成する人的要素及びその所有し管理する物的施設の両者を総合し合理的・
合目的的に配備組織して企業秩序を定立し、
この企業秩序のもとにその活動を行うものであって、
企業は、その構成員に対してこれに服することを求めるべく、
その一環として、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、
その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を、
一般的に規則をもって定め、又は具体的に指示、命令することができ、
これに違反する行為をする者がある場合には、企業秩序を乱すものとして、
当該行為者に対し、その行為の中止、原状回復等必要な指示、命令を発し、
又は規則に定めるところに従い制裁として懲戒処分を行うことができるといえます。
労働組合又はその組合員が、使用者の所有し管理する物的施設であって定立された企業秩序のもとに、
事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、
労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで、
叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、
これらの者に対しその利用を許さないことが、
当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、
職場環境を適正良好に保持し、規律のある業務の運営態勢を確保しうるように、
当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであって、
正当な組合活動として許容されるところであるということはできません。
本件ビラの貼付が行われたロツカーはYの所有し管理する物的施設の一部を構成するものであり、
Yの職員は、その利用を許されてはいるが、
本件のようなビラを貼付することは許されておらず、
また、Xらの所属する労働組合も、
Yの施設内にその掲示板を設置することは認められているが、
それ以外の場所に組合の文書を掲示することは禁止されているというのであるから、
Xらが、たとえ組合活動として行う場合であっても、
本件ビラをロツカーに貼付する権限を有するものでないことは明らかです。
Xらの本件ビラ貼付行為は、職場環境を適正良好に保持し、
規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、
Yの企業秩序を乱すものとして、正当な組合活動であるとすることはできず、
これに対しXらの上司が中止等を命じたことを不法不当なものとすることはできません。
そして、日本国有鉄道法31条1項1号は、
職員がYの定める業務上の規程に違反した場合に懲戒処分をすることができる旨を定め、
これを受けて、Yの就業規則66条は、
懲戒事由として「上司の命令に服従しないとき」(3号)、
「その他著しく不都合な行いのあつたとき」(17号)と定めているところ、
前記の事実によれば、Xらは上司から、
再三にわたりビラ貼りの中止等を命じられたにもかかわらず、
これを公然と無視してビラ貼りに及んだものであって、
Xらの各行動は、それぞれYの就業規則66条3号及び17号所定の懲戒事由に該当します。
【労働組合法7条(不当労働行為)】
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
【まとめ】
労働組合又はその組合員が、
使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して、
組合活動を行うことは、その利用を許さないことが当該施設につき、
使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、
当該施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであり、
正当な組合活動にあたらないといえるので、
規則に従い、所定の処分をすることができます。
【関連判例】
→「フジ興産事件と就業規則の周知」
→「富士重工業事件と調査協力義務」
→「関西電力事件と使用者の懲戒権」
→「富士見交通事件と懲戒当時に使用者が認識していた非違行為」