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作業場を持たずに、1人で工務店の大工仕事に従事する形態で稼働している大工は、
労働基準法上の「労働者」になりえるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、作業場を持たず、また、他人を雇わず、
1人で工務店の大工仕事を請け負う形態で仕事を行っていました。
A社がマンションの建築工事を受注し、B社がその内装工事を請け負うことになり、
Xは、B社が請け負った内装工事に従事していましたが、
作業中に右手指3本を切断し負傷してしまいました。
その負傷を理由として、Xは、労災保険法に基づき、
療養補償給付及び休業補償給付の請求をしました。
しかし、労働基準監督署長Yは、不支給の処分をしたため、
Xは、処分の取り消しを求めて争いました。
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【判決の概要】
(1) Xは、作業場を持たずに1人で工務店の大工仕事に従事するという形態で稼働していた大工であり、
株式会社A(以下「A」という。)等の受注したマンションの建築工事について、
B株式会社(以下「B」という。)が請け負っていた内装工事に従事していた際に、
負傷するという災害(以下「本件災害」という。)に遭いました。
(2) Xは、Bからの求めに応じて上記工事に従事していたものであるが、
仕事の内容について、仕上がりの画一性、均質性が求められることから、
Bから寸法、仕様等につきある程度細かな指示を受けていたものの、
具体的な工法や作業手順の指定を受けることはなく、
自分の判断で工法や作業手順を選択することができました。
(3) Xは、作業の安全確保や近隣住民に対する騒音、振動等への配慮から、
所定の作業時間に従って作業することを求められていたものの、
事前にBの現場監督に連絡すれば、工期に遅れない限り、仕事を休んだり、
所定の時刻より後に作業を開始したり、
所定の時刻前に作業を切り上げたりすることも自由でした。
(4) Xは、当時、B以外の仕事をしていなかったが、
これは、BがXを引きとどめておくために、優先的に実入りの良い仕事を回し、
仕事がとぎれないようにするなど配慮し、
X自身もBの下で長期にわたり仕事をすることを希望して、
内容に多少不満があってもその仕事を受けるようにしていたことによるものであって、
Bは、Xに対し、他の工務店等の仕事をすることを禁じていたわけではありませんでした。
また、XがBの仕事を始めてから本件災害までに、約8か月しか経過していませんでした。
(5) BとXとの報酬の取決めは、完全な出来高払の方式が中心とされ、
日当を支払う方式は、出来高払の方式による仕事がないときに数日単位の仕事をするような場合に用いられていました。
前記工事における出来高払の方式による報酬について、Xら内装大工は、
Bから提示された報酬の単価につき協議し、
その額に同意した者が工事に従事することとなっていました。
Xは、いずれの方式の場合も、請求書によって報酬の請求をしていました。
Xの報酬は、Bの従業員の給与よりも相当高額でした。
(6) Xは、一般的に必要な大工道具一式を自ら所有し,
これらを現場に持ち込んで使用しており、
XがBの所有する工具を借りて使用していたのは、
当該工事においてのみ使用する特殊な工具が必要な場合に限られていました。
(7) Xは、Bの就業規則及びそれに基づく年次有給休暇や退職金制度の適用を受けず、
また、Xは、国民健康保険組合の被保険者となっており、
Bを事業主とする労働保険や社会保険の被保険者となっておらず、
さらに、Bは、Xの報酬について給与所得に係る給与等として、
所得税の源泉徴収をする取扱いをしていませんでした。
(8) Xは、Bの依頼により、職長会議に出席して、
その決定事項や連絡事項を他の大工に伝達するなどの職長の業務を行い、
職長手当の支払を別途受けることとされていたが、上記業務は、
Bの現場監督が不在の場合の代理として、
BからXら大工に対する指示を取り次いで調整を行うことを主な内容とするものであり、
大工仲間の取りまとめ役や未熟な大工への指導を行うという役割を期待してXに依頼されたものでした。
以上によれば、Xは、前記工事に従事するに当たり、Aはもとより、
Bの指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず、
Bから上告人に支払われた報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、
労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、
Xの自己使用の道具の持込み使用状況、Bに対する専属性の程度等に照らしても、
Xは、労働基準法上の労働者に該当せず、
労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきです。
【労働基準法9条(労働者の定義)】
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
【まとめ】
Xは、下請業者による指揮監督の下に労働していたとはいえず、
報酬も仕事の完成に対して支払われたものであって、
自ら所有する工具で作業をすることが多いなど事業者性が認められ、
専属性も高くはなかったなどから、労働基準法上の労働者に該当せず、
労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しません。
【関連判例】
→「横浜南労基署長(旭紙業)事件と労働者の定義」
→「安田病院事件と黙示の労働契約」
→「関西医科大学研修医(未払賃金)事件と研修医の労働者性」
→「新宿労基署長(映画撮影技師)事件と労働者性」
→「新国立劇場運営財団事件と労働組合法上の労働者」