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雇用主以外の事業主が、「使用者」に当たると判断されるのは、
どのような場合なのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、テレビの放送事業を営む会社で、テレビ番組制作のための映像撮影、照明、
フィルム撮影、音響効果等の業務を請け負うA、B及びC(以下「請負三社」という。)と
請負契約を締結して、継続的に業務の提供を受けていました。
請負三社は、ほぼ同一の従業員をXの下に派遣して、その担当する番組制作業務につき、
Xが作成交付する台本及び制作進行表による作業内容、作業手順等の指示に従い、
Xから支給ないし貸与される器材等を使用し、Xの作業秩序に組み込まれて、
Xの従業員と共に番組制作業務に従事していました。
請負三社の従業員の業務の遂行に当たっては、
実際の作業の進行はすべてXの従業員であるディレクターの指揮監督の下に行われ、
ディレクターは、作業時間帯を変更したり予定時間を超えて作業をしたりする必要がある場合には、
その判断で請負三社の従業員に指示をし、
どの段階でどの程度の休憩時間を取るかについても、
作業の進展状況に応じその判断で右従業員に指示をするなどしていました。
請負三社は、それぞれ独自の就業規則を持ち、労働組合との間で賃上げ、夏季一時金、
年末一時金等について団体交渉を行い、
妥結した事項について労働協約を締結していました。
請負三社の従業員が組織する労働組合は、Xに対して、
昭和49年9月24日以降、賃上げ、一時金の支給、下請会社の従業員の社員化、
休憩室の設置を含む労働条件の改善等を議題として団体交渉を申し入れたが、
Xは、使用者でないことを理由として、交渉事項のいかんにかかわらず、
いずれもこれを拒否しました。
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【判決の概要】
労働組合法7条にいう「使用者」の意義について検討するに、
一般に使用者とは、労働契約上の雇用主をいうものであるが、
同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、
是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、
雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、
その労働者の基本的な労働条件等について、
雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、
決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、
右事業主は同条の「使用者」に当たります。
これを本件についてみるに、請負三社は、Xとは別個独立の事業主体として、
テレビの番組制作の業務につき被上告人との間の請負契約に基づき、
その雇用する従業員をXの下に派遣してその業務に従事させていたものであり、
もとより、Xは右従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではありません。
しかしながら、前記の事実関係によれば、Xは、
請負三社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、
編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、
作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負三社は、
単に、ほぼ固定している一定の従業員のうち、
だれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎないものであること、
Xの下に派遣される請負三社の従業員は、このようにして決定されたことに従い、
Xから支給ないし貸与される器材等を使用し、Xの作業秩序に組み込まれて、
Xの従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負三社の従業員の作業の進行は、
作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についても、
すべてXの従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたことが明らかです。
これらの事実を総合すれば、Xは、実質的にみて、
請負三社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、
作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、
雇用主である請負三社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、
決定することができる地位にあったものというべきであるから、その限りにおいて、
労働組合法七条にいう「使用者」に当たります。
そうすると、Xは、自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、
作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ、
請負三社の従業員が組織する労働組合との団体交渉を拒否することができないものというべきです。
ところが、Xは、昭和49年9月24日以降、賃上げ、一時金の支給、
下請会社の従業員の社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改普等の交渉事項について、
団体交渉を求める上告補助参加人の要求について、
使用者でないことを理由としてこれを拒否したというのであり、
右交渉事項のうち、Xが自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に係る諸条件」はこれに含まれる。)の改善を求める部分については、
Xが正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、
これを拒否したXの行為は、
労働組合法7条2号の不当労働行為を構成するものというべきです。
【労働組合法7条(不当労働行為)】
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
【まとめ】
雇用主以外の事業主であっても、
雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、
その労働者の基本的な労働条件等について、
雇用主と部分的に同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、
決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、
労働組合法7条の「使用者」に当たります。
【関連判例】
→「サガテレビ事件と黙示の労働契約」
→「黒川建設事件と親会社の労働契約上の責任」
→「徳島船井電機事件と親会社の労働契約上の責任」
→「大映映像ほか事件と黙示の労働契約の成立」