CBC管弦楽団事件と労働者性

(最一小判昭51.5.6)

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テレビ局との間で自由出演契約を締結している楽団員は、

労働組合法上の「労働者」にあたるのでしょうか。

【事件の概要】


放送事業を目的とする会社Aは、

昭和26年、会社の放送及び放送付帯業務に出演させるために、

D管弦楽団をつくり、楽団員と放送出演契約を締結しました。

その契約は、当初は、「専属出演契約」といわれるものであって、

これによると、契約期間(一年。ただし更新される。)中、楽団員は、

Aが指定する日時、場所、番組内容等に従って、

Aの放送及び放送付帯業務に出演する義務を負うとともに、

A以外の放送及び放送関係業務に出演すること(以下「他社出演」という。)を禁止され、

その出演報酬として、Aから楽団員に対し、

毎月、保障出演料(会社が月間の標準出演時間を指定し、現実の出演時間がこれに達すると否とを問わずに支払われる出演料)と、

超過出演料(右標準出演時間を超えて出演したときに一時間単位で支払われる出演料)が支払われるが、

契約期間中であっても、正当な理由があるときは一か月の予告期間をおき、

また契約違反があるときは直ちに、

両当事者において契約を解除することができるものとされていました(ただし、右正当理由による解除の規定は当初はなかった。)。

そして、楽団員には芸能員就業規則が適用され、

保健衛生や災害補償等について会社の一般従業員に準ずる取扱がされていました。

右契約は一年ごとに更新されていたところ、昭和39年に、「優先出演契約」に改められ、

これによって、楽団員の他社出演等は自由となったが、Aから出演発注があったときは、

楽団員は指定された番組に優先的に出演する義務を負うものとされ、

出演報酬及び契約解除については従前と変らず、

また、楽団員に対する芸能員就業規則の適用はないことになりました。

その後間もなく、Aは、楽団員との関係を更に「自由出演契約」に切り替えることとし、

昭和40年10月までの間に楽団員全員と右契約を結びました。

この契約においては、楽団員の他社出演等は自由であり、

Aが会社からの出演発注を断わることも文言上は禁止されておらず、

その出演報酬としては、年額・月割払で楽団員がAの出演発注に応じないことがあっても、

減額されない契約金と一時間一〇〇円の割合による出演料を支払うものとされ、

契約解除については従前と同様であり、

楽団員に対する芸能員就業規則の適用もないこととなっていました。

右自由出演契約の締結にあたっては、専属性を弱めるものであるとして、

楽団員側が難色を示したが、Aからは、同契約のもとにおいても、

専属出演契約の重要な契約部分は実体としては残すから安心するようにとの説明がされ、

Aも楽団員も、右契約によって出演発注に対する楽団員の諾否が文字どおり自由になるのではなく、

出演発注があれば原則としてはやはりこれを拒否できず、

いつも発注に応じないときは、契約解除の理由となり、

更には次年度の契約更新を拒絶されることもありうるものと考えていました。

また、昭和40年当時は、Aが出演を求める番組そのものが少なくなったため、

楽団員の出演時間が以前より著しく減少し、月平均9時間程度となっていたが、

このような事態は楽団員の予想していたところではなく、

もともとその将来の生活を保障するからということで契約した楽団員としては、

Aからの出演発注があることを常時期待していたものであり、

このため、現実の発注が少なかったとはいえ、

楽団員が他社出演をした例は1、2を数えるにとどまり、

多くの者はアルバイトをしてAからの出演報酬の不足分を補っていました。

そこで、楽団員は労働組合Xを結成し、Aに対して団体交渉を求めましたが、

Aはこれを拒否しました。

そのため、Xは地方労働委員会Yに、不当労働行為救済を求めましたが、

Yは申し立てを棄却しました。

したがって、Xは取消訴訟を提起しました。

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【判決の概要】


本件の自由出演契約が、Aにおいて放送の都度、

演奏者と出演条件等を交渉して個別的に契約を締結することの困難さと煩雑さとを回避し、

楽団員をあらかじめ会社の事業組織のなかに組み入れておくことによって、

放送事業の遂行上不可欠な演奏労働力を恒常的に確保しようとするものであることは明らかであり、

この点においては、専属出演契約及び優先出演契約と異なるところがありません。

このことと、自由出演契約締結の際におけるA及び楽団員の前記のような認識とを合わせ考慮すれば、

右契約の文言上は、楽団員が会社の出演発注を断わることが禁止されていなかったとはいえ、

そのことから直ちに、右契約が所論のいうように、

出演について楽団員になんらの義務も負わせず、

単にその任意の協力のみを期待したものであるとは解されず、

むしろ、原則としては発注に応じて出演すべき義務のあることを前提としつつ、

ただ個々の場合に他社出演等を理由に出演しないことがあっても、

当然には契約違反等の責任を問わないという趣旨の契約であるとみるのが相当です。

楽団員は、演奏という特殊な労務を提供する者であるため、

必ずしもAから日日一定の時間的拘束を受けるものではなく、

出演に要する時間以外の時間は事実上その自由に委ねられているが、

右のように、Aにおいて必要とするときは、

随時その一方的に指定するところによって楽団員に出演を求めることができ、

楽団員が原則としてこれに従うべき基本的関係がある以上、

たとえAの都合によって現実の出演時間がいかに減少したとしても、

楽団員の演奏労働力の処分につき会社が指揮命令の権能を有しないものということはできません。

また、自由出演契約に基づき楽団員に支払われる出演報酬のうち、

契約金が不出演によって減額されないことは前記のとおりであるが、

楽団員は、いわゆる有名芸術家とは異なり、

演出についてなんら裁量を与えられていないのであるから、その出演報酬は、

演奏によってもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、

むしろ、演奏という労務の提供それ自体の対価であるとみるのが相当であって、

その一部たる契約金は、楽団員に生活の資として、

一応の安定した収入を与えるための最低保障給たる性質を有するものと認めるべきです。

以上の諸点からすれば、楽団員は、自由出演契約のもとにおいてもなお、

Aに対する関係においては、労働組合法の適用を受けるべき労働者にあたります。

【労働組合法3条(労働者)】


この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

【労働組合法7条(不当労働行為)】


使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。

二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。

四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法 (昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。

【まとめ】


テレビ局と管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、

楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、

また、会社からの出演発注に応じなくても、

当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合でも、

会社が必要とするときは、随時その一方的に指定するところによって、

楽団員に出演を求めることができ、

楽団員は原則としてこれに応ずべき義務を負うという基本的関係が存在し、

かつ、楽団員の受ける出演報酬が、

演奏という労務の提供それ自体の対価とみられる場合は、

楽団員は、労働組合法の適用を受ける労働者にあたります。

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