ダイハツ工業事件と使用者の懲戒権

(最二小判昭58.9.16)

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使用者による懲戒権の行使は、

どのような場合に有効となるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、YのD工場製造第3部組立課E組に組立工として勤務していたが、

昭和46年11月14日東京都内で行われた沖縄返還協定批准阻止、

佐藤内閣打倒を訴えるデモに参加し、兇器準備集合罪等の被疑事実により逮捕され、

同年12月6日まで勾留されました。

Xは、同年12月8日E組に出勤したが、E組ではXの欠勤中に作業の編成替えが行われ、

Xは余剰人員として取り扱われることとなり、

E組でのXの専属の持場はなくなっていました。

そして、F組長が、勤労部労務第2課のかねてからの指示に基づき、

出勤して来たXに対し、勤務に就かずに直ちに帰宅し、

翌朝8時に事情聴取のため労務第2課へ出頭するように命じたにもかかわらず、

Xは、右命令に従わずにE組の元の持場で作業に就きました。

Xは、翌9日、労務第2課へ指示された午前8時には出頭せず、

午後2時ごろに至って出頭しました。

Xは、同月13日にも、労務第2課へ出頭するよう同課長から指示されていたにもかかわらず、

E組の元の持場において就労し、

F組長らが、労務第2課から事情聴取を求められていること、

Xの持場は編成替えによってなくなっていること、

現場としては事情聴取が終わらない限り作業に就かせるわけにはいかないことを説明して、

労務第2課への出頭を促したが、これに応じませんでした。

そこで、Yは、同日、Xに対し、何らかの処分があるまでの就労禁止及び、

自宅待機を申し渡しましたが、

Xは、同日の終業時までE組の元の持場において就労しました。

そして、Xは、同月14日から同月17日まで連日にわたって、

右自宅待機命令を無視してD工場構内に入構して就労しようと試み、

これを阻止しようとする警士らともみ合いになりました。

Yは、同月20日、Yの就業規則73条4号所定の「正当な理由なしに職務上の指示命令に従わない者」に該当するとして、

Xに対し、同月21日から昭和47年1月21日まで20日間の出勤停止処分(以下「本件第1次出勤停止処分」という。)にしました。

Xは、昭和46年12月18日、就労要求のゼツケンを着けてD工場構内への入構を試み、

これを阻止しようとした警士らともみ合い、

誓士のすきを突いて構内の鈑金工場付近まで入つたが、警士らに取り押えられました。

このもみ合いによって、警士1名の腕時計が破損し、

誓士2名が発赤ができる程度の負傷をしました。

Xは、翌19日、就労要求のゼツケンを着けてD工場構内への入構を試み、

これを阻止しようとする警士らともみ合い、警士らに会社の手先であるなどと暴言を吐き、

その際、警士1名が前胸部打撲傷の傷害を受けました。

Xは、本件第1次出勤停止処分は不当で承服できないと反発し、

出勤停止期間中連日のようにD工場の門前でビラを配布しました。

ビラは、主としてXに対する自宅待機命令、本件第1次出勤停止処分の不当を訴え、

就労を要求するものであったが、その中には上告人の経営方針、

労務政策一般を過激な表現で非難するものも含まれていました。

Yは、昭和47年1月21日、Xが前記就業規則七三条四号に該当するとして、

Xに対し、同月22日から同年2月15日まで20日間の出勤停止処分(以下「本件第2次出勤停止処分」という。)にしました。

Yは、本件第2次出勤停止処分の終了する昭和47年2月15日にXを呼び出し、

Xの新しい職場が見付かるまで当分の間自宅待機するように命じました。

翌16日、Xは、D工場構内へ入構し、これを制止するため駆け付けた警士を振り切って、

E組作業現場へ行き、Xに対する処分が不当であることを従業員に訴えて回りました。

そして、Xを工場外へ連れ出そうとする警士らに激しく抵抗し、

工場内の狭い階段でもみ合いになった際には、

危険を避けるため組立課長の命令でベルトコンベアが3分間停止されました。

また、この日のもみ合いで、

警士3名が胸部打撲傷、面部裂傷又は頸部挫傷の傷害を受けました。

Xは、同月17日夜、就労を要求してD工場構内への入構を試み、

これを阻止しようとする誓士らともみ合ったが、いったん退去し、

そして、翌18日午前1時30分ごろ再び現れ、誓士のすきを突いて工場内に入り、

休憩時間中のE組の作業現場へ行き、Yの処分が不当であることを訴えたが、

誓士らによって構外へ連れ出されました。

しかし、同日夜にも現れ、就労を要求して工場構内への入構を試み、

しばらく警士らともみ合いになりました。

Xは、同月23日、警士のすきを突いてD工場構内へ駆け込み、

駆け付けた数人の警士らが構外へ連れ出そうとしたところ、これに激しく抵抗し、

このもみ合いによって、警士1名が両膝打撲傷、両上肢擦過傷の傷害を受け、

24日間欠勤させることになりました。

Yは、同年3月30日、Xが前記就業規則73条4号、同条5号「勤務怠慢又は素行不良で会社の風紀秩序を乱した者」、

同条12号「故意又は重大な過失により会社に損害を与えた者」及び、

同条13号「その他諸規則に違反し、又は前各号に準ずる行為をした者」に該当するとして、

Xに対し、懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」という。)にしました。

そこで、Xは、処分の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、

それが客観的に合理的理由を欠き、

社会通念上相当として是認することができない場合に、

初めて権利の濫用として無効になります。

このような見地に立って、まず本件第2次出勤停止処分をみると、

その対象となった昭和46年12月18日及び同月19日の行為は、

本件第1次出勤停止処分前の所為であり、

しかも本件第1次出勤停止処分の対象となった一連の就労を要求する行為とその目的、

態様等において著しく異なるところはないにしても、

より一層激しく悪質なものとなり、警士が負傷するに至っていることと、

Xは本件第1次出勤停止処分を受けたにもかかわらず、何らその態度を改めようとせず、

右処分は不当で承服できないとしてこれに執拗に反発し、

その期間中D工場の門前に現れて、

右処分の不当を訴えるビラを配布するという挙に出たこととを併せ考えると、

本件第2次出勤停止処分は、必ずしも合理的理由を欠くものではなく、

社会通念上相当として是認できないものではないといわなければならず、

これを目して権利の濫用であるとすることはできません。

次に、本件懲戒解雇について考えるに、原審の確定した前記事実関係によれば、

Xは、職場規律に服し、Yの指示命令に従い、

企業秩序を遵守するという姿勢を欠いており、

自己の主張を貫徹するため、ひたすら執拗かつ過激な実力行使に終始し、警士の負傷、

ベルトコンベアの停止等による職場の混乱を再三にわたり招いているのであって、

その責任は重大であるといわなければなりません。

原審は、Xの右の行為は昭和47年2月15日に発せられた自宅待機命令に反発したためで、

Yの規模及びXの作業内容に照らせば、XにE組に代わる職場を与えることは、

Yにとって容易なことであり、その余地と余裕は十分にあったから、

右自宅待機命令は正当な理由なくされたものであるというが、

Yとしては、将来の企業秩序の維持にできるだけ支障を及ぼすおそれがないように、

Xの新たな配置先を慎重に決定する必要があり、

Xの右自宅待機命令に至るまでの一連の行動に徴すると、

右の決定がYにとってそれ程容易であったとは考えられないから、

右命令には合理性がないと断定するのは早計のそしりを免れません。

また、原審の適法に確定するところによれば、

Yにおいては、自宅待機期間中も賃金は支払われるというのであって、

自宅待機命令はXに対して、特段の経済的不利益を及ぼすものではないのであるから、

これをもってXの権益に対する重大な侵害であるかのごとく考えるのは相当でありません。

したがって、右自宅待機命令に反発した被上告人の行為に同情の余地があるとすることはできません。

もっとも、Xは、昭和46年12月13日に自宅待機命令を受けて以来、

引き続き就労を拒否されていることになるのであって、

これに焦燥を感じたとしても若干無理からぬ面があり、

Yの一連の措置には、Xの立場に対する十分な配慮を欠いたうらみがないではないが、

そうであるからといって、Xの行為が是認されるべきいわれはありません。

Xは、実力を行使して工場構内に入構しようとし、そのため多数の警士に傷害を負わせ、

更に一時的にもせよ工場内のベルトコンベアを停止せざるをえないような事態を招いているのです。

そして、右の誓士の度重なる負傷をもって、

原審のいうように偶発的なものと評することはできません。

実力をもってしても、あくまで就労しようと試みるXと、

これを阻止しようとする警士らとの間でもみ合いとなるのは必然的な成り行きであって、

その過程で警士が負傷する可能性のあることは、

Xにも当然予見できたことといわなければなりません。

しかるに、Xは、あえてこのような実力による就労という行動に出ているのです。

また、原審は、ベルトコンベアの停止したことによる被害の程度は微々たるものであるとして、

Xの行為のもたらした結果を殊更軽視しようとしているが、

Xの行為により工場の業務そのものにまでかかる具体的な被害が招来されたことは、

むしろ極めて重大な事態といわなければなりません。

自宅待機命令が必ずしも適切なものではなく、

Xが右命令は不当なものであると考えたとしても、

その撤回を求めるためには社会通念上許容される限度内での適切な手段方法によるほかはないのであって、

Xの行為は企業秩序を乱すこと甚だしく、職場規律に反すること著しいものであり、

それがいかなる動機、目的の下にされたものであるにせよ、

これを容認する余地はありません。

Xが当時未成年であったということも、その責任を軽減する理由になりません。

Xは、一人前の労働者として就職し、またそのように処遇されているのであるから、

懲戒処分の面においても未成年者であることを特に斟酌すべきいわれはありません。

また、原審の確定するXの一連の行動に照らすと、

本件懲戒解雇の対象となったXの行為は、

思慮が定まらないがゆえのものであるとは認められないし、

将来そのような行動が改められる見込みがあるとも推断し難いのであって、

Xが未成年者であったことを考慮すべきであるとする原審の説示は、

この点からしても当を得たものではありません。

以上のとおり、Xとしては自己の立場を訴え、その主張を貫徹するにしても、

その具体的な手段方法については、企業組織の一員として、

おのずから守るべき限度があるにもかかわらず、本件懲戒解雇の対象となったXの行為は、

その性質、態様に照らして明らかにこの限度を逸脱するものであり、

その動機も身勝手なものであって同情の余地は少なく、

その結果も決して軽視できないものです。

しかも、Xは、長期欠勤の後にようやく出勤してきた昭和46年12月8日以来、

一貫して反抗的な態度を示し、企業秩序をあえて公然と紊乱してきたのであるから、

Yが、Xをなお企業内にとどめ置くことは企業秩序を維持し、

適切な労務管理を徹底する見地からしてもはや許されないことであり、

事ここに至っては、Xを企業外に排除するほかはないと判断したとしても、

やむをえないことというべきであり、

これを苛酷な措置であるとして非難することはできません。

それゆえ、以上のようなXの行為の性質、態様、結果及び情状並びに、

これに対するYの対応等に照らせば、

YがXに対し本件懲戒解雇に及んだことは、

客観的にみても合理的理由に基づくものというべきであり、

本件懲戒解雇は社会通念上相当として是認することができ、

懲戒権を濫用したものと判断することはできないといわなければなりません。

【まとめ】


使用者の懲戒権の行使は、それが客観的に合理的理由を欠き、

社会通念上相当として是認することができない場合に、

初めて権利の濫用として無効になります。

【関連判例】


「高知放送事件と解雇権の濫用」
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「八戸鋼業事件とタイム・レコーダーの不正打刻」
「関西電力事件と使用者の懲戒権」
「富士見交通事件と懲戒当時に使用者が認識していた非違行為」