西日本鉄道事件と所持品検査

(最二小判昭43.8.2)

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使用者が労働者に対して行う所持品検査が、

適法とされるための要件はどのようなものでしょうか。

【事件の概要】


Yは、電車、バス等による陸上運輸業を営むものであり、

Xは、Yの電車運転士でした。

Yでは、かねてから、乗務員による乗車賃の不正隠匿を摘発、防止する目的をもって、

就業規則の8条に、

「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、

これを拒んではならない。」との規定を設けていました。

Xは、乗車勤務終了直後、所持品検査を受けるよう指示を受けたが、

靴は所持品ではない、本人の承諾なしに靴の検査はできない筈だといって、

上司指示があったにもかかわらず、帽子とポケツト内の携帯品を差し出しただけで、

ついに脱靴には応じませんでした。

Xのほか、所持品検査において脱靴を拒否した者はいませんでした。

Yは、Xの脱靴の拒否が就業規則8条に違反し、

58条3号の「職務上の指示に不当に反抗し……職場の秩序を紊したとき」に該当するとして、

Xを懲戒解雇処分にしました。

そこで、Xは処分の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


使用者が、その企業の従業員に対して金品の不正隠匿の摘発・防止のために行なう、

いわゆる所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、

その性質上、つねに人権侵害のおそれを伴うものであるから、

たとえ、それが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置であり、

他の同種の企業において多く行なわれるところであるとしても、

また、それが労働基準法所定の手続を経て作成・変更された就業規則の条項に基づいて行なわれ、

これについて従業員組合または当該職場従業員の過半数の同意があるとしても、

そのことの故をもって、当然に適法視されうるものではありません。

問題は、その検査の方法ないし程度であって、所持品検査は、

これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、

しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければなりません。

そして、このようなものとしての所持品検査が、就業規則その他、

明示の根拠に基づいて行なわれるときは、

他にそれに代わるべき措置をとりうる余地が絶無でないとしても、

従業員は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がないかぎり、

検査を受忍すべき義務があります。

そして、脱靴を伴う靴の中の検査は、所論のごとく、

ほんらい身体検査の範疇に属すべきものであるとしても、

右の事実関係のもとにおいては、就業規則8条所定の所持品検査には、

このような脱靴を伴う靴の中の検査も含まれるものと解して妨げなく、

Xが検査を受けた本件の具体的場合において、

その方法や程度が妥当を欠いたとすべき事情の認められないこと前述のとおりである以上、

Xがこれを拒否したことは、右条項に違反するものというほかありません。

また、就業規則58条3号にいう「職務上の指示」について、

所論のごとく脱靴を伴う所持品検査を受けるべき旨の指示を、

とくに除外する合理的な根拠は見出せません。

そして、懲戒解雇処分にいたるまでの経緯、情状等に関する原審確定の事実に徴すれば、

Xの脱靴の拒否が就業規則58条3号所定の懲戒解雇事由に該当するとした原審の判断も、

所論の違法をおかしたものとは認められません。

本件懲戒解雇は、解雇権の濫用は認められず、懲戒解雇は有効です。

【まとめ】


所持品検査は、

1)就業規則その他明示の根拠に基づいて、

2)これを必要とする合理的理由に基づき、

3)一般的に妥当な方法と程度で、

4)制度として職場従業員に対して、
画一的に実施されるものでなければなりません。

この要件のもとで実施される所持品検査において、

労働者は、個別的な場合にその方法や程度が妥当を欠く等、

特段の事情がないかぎり、検査を受忍すべき義務があります。

【関連判例】


「日立製作所武蔵工場事件と時間外労働」
「電電公社帯広局事件と就業規則の法的性質」
「東陶機器事件と所持品検査」
「芸陽バス事件と所持品検査」
「帝国通信工業事件と所持品検査」
「サンデン交通事件と所持品検査」