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労働者の職場外の行為が、
使用者が就業規則等に定める懲戒処分の対象となるのは、
どのような場合なのでしょうか。
【事件の概要】
鉄鋼、船舶等の製造、販売業のYの従業員であったXらは、
昭和32年7月8日、いわゆる砂川事件に加担し、
日本国とアメリカ合衆国との間の、
安全保障条約3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法2条違反の罪により、
逮捕、起訴されたところ、
Yは、労働協約及び就業規則所定の懲戒解雇事由である、
「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」(以下本件懲戒規定という。)に該当するとして、
Xらを懲戒解雇にしました。
そこで、Xらは、解雇の無効を求めて争いました。
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【判決の概要】
営利を目的とする会社が、その名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、
会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、
会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、
それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、
これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければなりません。
本件懲戒規定も、このような趣旨において、
社会一般から不名誉な行為として非難されるような従業員の行為により、
会社の名誉、信用その他の社会的評価を著しく毀損したと客観的に認められる場合に、
制裁として、当該従業員を企業から排除しうることを定めたものであると解されます。
従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、
必ずしも、具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、
当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、
会社の経済界に占める地位、
経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、
右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると、
客観的に評価される場合でなければなりません。
そこで、本件についてみると、
Xらは、在日アメリカ空軍の使用するD基地の拡張のための測量を阻止するため、
他の労働者ら約250名とともに、
一般の立入りを禁止されていた同飛行場内に不法に立ち入り、
警備の警官隊と対峙した際にも、
集団の最前列付近で率先して行動したというものであって、
反米的色彩をもつ集団的暴力事犯としての砂川事件が、
国の内外に広く報道されたことにより、
当時Yが巨額の借款を申し込んでいたE銀行からは、
Yの労使関係につき砂川事件のことを問題とされ、
また、国内の他の鉄鋼関係会社からも同事件について批判を受けたことがあるなど、
Yの企業としての社会的評価に影響のあったことは、原判決の確定するところです。
しかし、原判決は、他方において、
Xらの前記行為が破廉恥な動機、目的に出たものではなく、
これに対する有罪判決の刑も最終的には罰金2000円という比較的軽微なものにとどまり、
その不名誉性はさほど強度ではないこと、Yは鉄鋼、船舶の製造販売を目的とする会社で、
従業員約3万名を擁する大企業であること、
XらのYにおける地位は工員(ただし、1名は組合専従者)にすぎなかったことを認定するとともに、
所論が砂川事件による影響を強調する前記E銀行からの借款との関係については、
Yの右借款が実現したのは同時に申込みをした他の会社より3箇月ほど遅延したが、
Xらが砂川事件に加担したことが右遅延の原因になったものとは認められないとしています。
以上の事実関係を綜合勘案すれば、
Xらの行為がYの社会的評価を若干低下せしめたことは否定しがたいけれども、
会社の体面を著しく汚したものとして、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由とするのには、
なお不十分であるといわざるをえません。
【砂川事件とは】
1957年にアメリカ軍の立川基地拡張に対する反対運動の過程で起きた事件で、57年7月8日、当時の東京都北多摩郡砂川町において、基地を拡張するための測量に反対するデモ隊の一部が、立入禁止の境界柵を破壊して基地内に侵入し、7名が「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法」違反として起訴されました。この訴訟で、被告人らは、安保条約及びそれに基づく米国軍隊の駐留が憲法前文および9条に違反すると主張したので、一大憲法訴訟となりました。
【まとめ】
会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような労働者の行為は、
それが職務遂行と直接関係のない私生活上の行為であっても、
これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められます。
しかし、労働者の行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、
会社の経済界に占める地位、経営方針及び、
その労働者の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、
その労働者の行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると、
客観的に評価される場合に限られます。
【関連判例】
→「富士重工業事件と調査協力義務」
→「小田急電鉄事件と懲戒解雇に伴う退職金不支給」
→「横浜ゴム事件と私生活上の行為」
→「中国電力事件と勤務時間外のビラ配布」
→「国鉄小郡駅事件と私生活上の非違行為」
→「繁機工設備事件と企業の風紀を乱す行為」
→「全日本空輸事件と休職処分」