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労働者が私生活で行った行為によって、
使用者から懲戒解雇処分を受けることがあるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、Y社のタイヤ工場製造課の作業員として勤務していました。
昭和40年8月1日午後11時20分頃、Xは飲酒した上で、他人の居宅の風呂場を押し開け、
屋外に履き物を脱ぎ揃えてから、同所から屋内に忍び入りましたが、
家の者に誰何されたため直ちに屋外に立ち出で、履き物を捨てて逃走しました。
しかし、まもなく私人に捕まり警察に引き渡されました。
Xは住居侵入罪に問われ、罰金2,500円の刑に処せられました。
その後、数日を経ないうちに、Xの犯行及び逮捕の事実が噂として広まり、
工場近辺の住民及びY社従業員の相当数の者が当該事実を知ることとなり、
Y社は、従業員賞罰規則所定の懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして、
同年9月17日にXを懲戒解雇しました。
そこで、Xは、懲戒解雇の無効を求めて争いました。
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【判決の概要】
原審が認定した事実関係のもとにおいて、
Xが右懲戒解雇の事由に該当するかどうかについて按ずるに、
Xがその責任を問われた事由は、Xが昭和40年8月1日午後11時20分頃、
他人の居宅に故なく入り込み、
これがため住居侵入罪として処罰されるに至ったことにあるが、
右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥すべき性質の事柄であって、
当時Yにおいて、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、
信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、このような犯行が行なわれ、
Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、
Yが、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、
無理からぬ点がなくはないです。
しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、
問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のない、
いわば私生活の範囲内で行なわれたものであること、
Xの受けた刑罰が罰金2,500円の程度に止まったこと、
YにおけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで、
指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、
Xの右行為が、Yの体面を著しく汚したとまで評価するのは、
当たらないというのほかなく、Xに対する懲戒解雇処分は無効です。
【まとめ】
労働者の私生活上の行為が懲戒の対象となるのは、
その行為が、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがある場合及び、
企業の社会的評価を傷つけるおそれのある場合です。
しかし、労働者の行為の性質、情状のほか、会社の規模、
その労働者の会社における地位等諸般の事情から総合的に判断して、
その労働者の行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると、
客観的に評価される場合に限られます。
【関連判例】
→「日新鋼管事件と職場外の行為」
→「小田急電鉄事件と懲戒解雇に伴う退職金不支給」
→「国鉄中国支社事件と私生活上の非違行為」
→「中国電力事件と勤務時間外のビラ配布」
→「国鉄小郡駅事件と私生活上の非違行為」
→「繁機工設備事件と企業の風紀を乱す行為」
→「全日本空輸事件と休職処分」