大林ファシリティーズ事件と不活動時間

(最二小判平19.10.17)

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住み込みでマンション管理業務に従事していた労働者の労働時間は、

実際に作業を行っていない不活動時間を含めて、

労働時間に該当するのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、亡夫とともに、マンション管理員としてYに雇用され、

住み込みで勤務していました。

Yは、Xらに対し、本件雇用契約に基づき、毎月の賃金支払日に、

基準内賃金(本給及び加給)のほか、

割増手当に充当する趣旨で特別手当を支払っていました。

しかし、Xらは、時間外労働及び休日労働を行ったのに、

就業規則所定の割増手当の一部が特別手当として支払われたにとどまると主張して、

Yに対し、上記の割増手当の残額の支払を求めて争いました。

なお、Yの給与規則によれば、割増手当は、

割増基準額(基準内賃金を当該年度の1か月の平均所定労働時間数で除した額)に、

就労日における所定労働時間を超えた場合は125%、

法定休日に労働した場合は135%、法定休日以外の休日労働の場合は125%、

を乗じて算出される金額とされていました。

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【判決の概要】


労働基準法32条の労働時間(以下「労基法上の労働時間」という。)とは、

労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、

実作業に従事していない時間(以下「不活動時間」という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、

労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきです(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。

そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、

使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、

当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、

労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができます。

したがって、不活動時間であっても、労働からの解放が保障されていない場合には、

労基法上の労働時間に当たるというべきです。

そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、

労働からの解放が保障されているとはいえず、

労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当です(最高裁平成9年(オ)第608号,第609号同14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。

Yは、Xらに対し、所定労働時間外においても、

管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉、

テナント部分の冷暖房装置の運転の開始及び停止等の断続的な業務に従事すべき旨を指示し、

Xらは、上記指示に従い、各指示業務に従事していました。

また、Yは、Xらに対し、午前7時から午後10時まで管理員室の照明を点灯しておくよう指示していたところ、

本件マニュアルには、Xらは、所定労働時間外においても、

住民や外来者から宅配物の受渡し等の要望が出される都度、

これに随時対応すべき旨が記載されていたというのであるから、

午前7時から午後10時までの時間は、住民等が管理員による対応を期待し、

Xらとしても、住民等からの要望に随時対応できるようにするため、

事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたものというべきです。

さらに、Yは、Xらから管理日報等の提出を受けるなどして定期的に業務の報告を受け、

適宜業務についての指示をしていたというのであるから、

Xらが所定労働時間外においても住民等からの要望に対応していた事実を認識していたものといわざるを得ず、

このことをも併せ考慮すると、住民等からの要望への対応について、

Yによる黙示の指示があったものというべきです。

そうすると,平日の午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、

Xらは、管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて、

本件会社の指揮命令下に置かれていたものであり、

上記時間は、労基法上の労働時間に当たるというべきです。

土曜日においても、平日と同様、午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は、

管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて、

労基法上の労働時間に当たるものというべきです。

また、Yは、土曜日はXらのいずれか1人が業務を行い、

業務を行った者について、翌週の平日のうち1日を振替休日とすることについて、

Xらの承認を得ていたというのであるが、他方で、Xらは、現実には、

翌週の平日に代休を取得することはありませんでした。

そうである以上、土曜日における午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は、

すべて時間外労働時間に当たるというべきです。

Yは、Xらに対し、土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し、

Xらもこれを承認していたというのであり、

土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないのであるから、

土曜日については、上記の指示内容、業務実態、業務量等の事情を勘案して、

Xらのうち1名のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当です。

Yは、日曜日及び祝日については、

本件雇用契約において休日とされていたことから、

管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉以外には、

Xらに対して業務を行うべきことを指示していなかったというのであり、

また、日曜日及び祝日は、本件管理委託契約においても休日とされていました。

そうすると、Xらは、日曜日及び祝日については、

管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には労務の提供が義務付けられておらず、

労働からの解放が保障されていたということができ、

午前7時から午後10時までの時間につき、

待機することが命ぜられた状態と同視することもできません。

したがって、上記時間のすべてが労基法上の労働時間に当たるということはできず、

Xらは、日曜日及び祝日については、管理員室の照明の点消灯、

ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間に限り、

休日労働又は時間外労働をしたものというべきです。

Xらが病院に通院したり、犬を運動させたりしたことがあったとすれば、

それらの行為は、管理員の業務とは関係のない私的な行為であり、

Xらの業務形態が住み込みによるものであったことを考慮しても、

管理員の業務の遂行に当然に伴う行為であるということはできません。

病院への通院や犬の運動に要した時間において、

XらがYの指揮命令下にあったということはできません。

【労働基準法32条(労働時間)】


使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

◯2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

【労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)】


使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

◯2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

◯3 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

◯4 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

◯5 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

【関連判例】


「三菱重工業長崎造船所事件と労働時間」
「大星ビル管理事件と仮眠時間」
「阪急トラベルサポート事件とみなし労働時間」
「京都銀行事件と黙示の指示による労働時間」
「JR東日本(横浜土木技術センター)事件と1か月単位の変形労働時間制」