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使用者と労働組合が締結した労働協約は、
非労働組合員に対しても適用されるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、Aに採用され、就業規則と労働協約により満63歳が定年とされていました。
昭和40年、Aの一部保険業務をYが引き継ぐことになり、XはYの調査員となりました。
Yの定年年齢は満55歳であったが、Xを含む元A出身者の定年は満63歳とされ、
定年年齢が統一されない状態が続いました。
昭和58年に、YはB組合と定年年齢の統一を合意し、
定年を満63歳から満57歳に引き下げ、退職金支給率の変更等の労働協約の締結及び、
就業規則の変更がなされました。
労働協約の締結に伴い、Yは、同年7月11日、就業規則の定年に関する部分及び、
退職手当規定を労働協約と同一内容のものに改定するとともに、
これを従業員に周知させました。
そこで、非組合員であったX(B組合は調査員に加入資格を認めていなかった)は、
労働協約による労働条件変更の効力は非組合員には及ばないとして、
契約上の地位の確認と差額賃金の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
労働協約には、労働組合法17条により、
1の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が1の労働協約の適用を受けるに至ったときは、
当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても、
右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められています。
ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において、
未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、
そのことだけで右の不利益部分については、その効力を未組織の同種労働者に対して、
及ぼし得ないものと解するのは相当ではありません。
思うに、同条は、その文言上、
同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、
労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、
総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、
その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからです。
また、右規定の趣旨は、主として1の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、
労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、
その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、
労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当ではありません。
しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、
また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、
その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、
労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、
労働協約が締結されるに至った経緯、
当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、
当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、
労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当です。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、
まず、本件労働協約は、Xが勤務していたYのH支店において、
労働組合法17条の要件を満たすものとして、その基準は、原則としては、
Xに適用されてしかるべきものと解されます。
そして、本件労働協約が締結されるに至った経緯をみても、
Yにおいては、かねてから、A出身の労働者の労働条件とそれ以外の労働者の労働条件の統一を図ることが、
労使間の長年の懸案事項であって、また、退職金制度については、
変更前の退職手当規程に従った退職金の支払を続けていくことは、
Yの経営を著しく悪化させることになり、これを回避するためには、
退職金支給率が変更されるまでは、退職金算出の基準額を、
昭和53年度の本俸額に据え置くという変則的な措置を執らざるを得なかったなどの事情があったというのであるから、
組合が、組合員全員の雇用の安定を図り、
全体として均衡のとれた労働条件を獲得するために、
一部の労働者にとっては不利益な部分がある労働条件を受け入れる結果となる本件労働協約を終結したことには、
それなりの合理的な理由があったものということができます。
そうであれば、本件労働協約上の基準の一部の有利、不利をとらえて、
Xへの不利益部分の適用を全面的に否定することは相当ではありません。
しかしながら他面、本件労働協約の内容に照らすと、
その効力が生じた昭和58年7月11日に既に満57歳に達していたXのような労働者に、
その効力を及ぼしたならば、Xは、本件労働協約が効力を生じたその日に、
既に定年に達していたものとしてYを退職したことになるだけでなく、
それと同時に、その退職により取得した退職金請求権の額までもが、
変更前の退職手当規程によって算出される金額よりも減額される結果になるというのであって、
本件労働協約によって専ら大きな不利益だけを受ける立場にあることがうかがわれます。
また、退職手当規程等によってあらかじめ退職金の支給条件が明確に定められている場合には、
労働者は、その退職によってあらかじめ定められた支給条件に従って算出される金額の退職金請求権を取得することになること、
退職金がそれまでの労働の対償である賃金の後払的な性格をも有することを考慮すると、
少なくとも、本件労働協約をXに適用して、
その退職金の額を昭和53年度の本俸額に
変更前の退職手当規程に定められた退職金支給率を案じた金額である、
2007万8800円を下回る額にまで減額することは、
Xが具体的に取得した退職金請求権を、その意思に反して、
組合が処分ないし変更するのとほとんど等しい結果になるといわざるを得ません。
加えて、Xは、Yと組合との間で締結された労働協約によって、
非組合員とするものとされていて、組合員の範囲から除外されていました。
以上のことからすると、本件労働協約が締結されるに至った前記の経緯を考慮しても、
右のような立場にあるXの退職金の額を前記金額を下回る額にまで減額するという不利益を、
Xに甘受させることは、著しく不合理であって、その限りにおいて、
本件労働協約の効力はXに及ぶものではありません。
【労働組合法17条(一般的拘束力)】
一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。
【まとめ】
労働組合法17条所定の要件を満たす労働協約に定める基準が、
一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益であっても、
そのことだけで不利益部分について労働協約の効力を未組織の同種労働者に対して、
及ぼし得ないとすることはできません。
しかし、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、
労働協約が締結されるに至った経緯、
労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、
労働協約を労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、
その効力を労働者に及ぼすことはできません。
【関連判例】
→「秋北バス事件と就業規則の不利益変更」
→「第四銀行事件と就業規則の不利益変更」
→「福岡雙葉学園事件と期末勤勉手当の一方的減額」
→「明石運輸事件と就業規則と労働協約の関係」
→「日音事件と就業規則の周知」
→「日本鋼管(賃金減額)事件と労働条件の不利益変更」
→「中根製作所事件と労働協約による賃金減額」
→「鞆鉄道事件と労働協約による賃金減額」
→「中央建設国民健康保険組合事件と労働協約による退職金の減額」