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使用者の就業規則変更に際して、多数労働組合の同意はあるが、
少数労働組合の同意がない場合に、変更後の就業規則は、
少数労働組合員に対しても効力が及ぶのでしょうか。
【事件の概要】
Xらは、Y銀行の少数労働組合A(以下、従組Aという。)の組合員でした。
昭和63年の銀行法施行令の改正により、
Y銀行は、土曜日を銀行の休日とすることになったため、
完全週休二日制を導入することになりました。
これに伴い、就業規則を変更して、平日の所定労働時間は、
毎週最初の営業日と毎月25日から月末までの営業日(年間95日)については60分、
その他の平日については10分、所定労働時間を延長しました。
また、年末年始の営業日に限り労働時間の延長をしないことにしました。
この就業規則の変更について、多数労働組合Bの同意は得られたが、
少数労働組合Aの同意が得られませんでしたが、
少数労働組合Aの従業員に対しても、新しい就業規則を適用しました。
そこで、Xらは、就業規則の変更は不利益で合理性がないので、
変更に同意していないXらには効力は及ばないと主張して、
Y銀行に対して時間外手当の差額の支払いを求めて争いました。
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【判決の概要】
本件就業規則変更により、Xらにとっては、
特定日以外の平日の所定労働時間が10分間、特定日の所定労働時間が60分間延長されることとなったのであるから、
本件就業規則変更が、Xらの労働条件を不利益に変更する部分を含むことは明らかです。
また、労働時間が賃金と並んで重要な労働条件であることはいうまでもありません。
まず、変更による実質的な不利益の程度について検討すると、
特定日における60分間の労働時間の延長は、
それだけをみればかなり大きな不利益と評し得るが、
特定日以外の営業日における延長時間は10分間にすぎないものです。
本件就業規則変更前のXらの所定労働時間は、
第1、第3、第4及び第5週が39時間10分、第2週が35時間ということになり、
これが、変更後は、おおまかにいえば、月末以外が週36時間40分、
月末が週40時間となり、年間(平成元年4月1日から同2年3月31日まで)では、
42時間10分短縮されることになります。
そうだとすれば、週単位でみると、所定労働時間が減少している週の方が多く、
年単位でみても、所定労働時間が相当に減少しており、
むしろ、時間当たりの基本賃金額は、
本件就業規則変更によりそれだけ増加したということができます。
また、Xらは、本件就業規則変更による時間外勤務手当の減少を重視すべきであると主張しています。
しかし、時間外勤務は、法定労働時間の範囲内において使用者が時間外勤務を命じた場合や、
法定労働時間を超えるものについて労働基準法36条1項に基づく協定が締結され、
これにより使用者が時間外勤務を命じた場合などに行われるものであって、
時間外勤務を命ずることについては使用者に裁量の余地があり、
かつ、事務の機械化等が時間外勤務の必要性に影響を及ぼすことも想定することができるのです。
右のことからすると、もし本件就業規則変更がされなかった場合に、
右変更前の終業時刻から本件就業規則変更後の退勤時刻までの時間につき、
法定内あるいは法定外の時間外勤務が当然に行われることになるとはいえず、
これが行われることを前提とするXらの主張には、合理的な根拠があるとはいい難いです。
他方、本件では、完全週休二日制の実施が本件就業規則変更に関連する労働条件の基本的な改善点であり、
労働から完全に解放される休日の日数が連続した休日の増加という形態で増えることは、
労働者にとって大きな利益であるということができます。
右のとおり、年間の所定労働時間が減少して時間当たりの基本賃金額が増加し、
しかも、連続した休日の日数が増加することからすれば、
平日の労働時間の延長による不利益及びこれに伴いある程度は生ずるであろうことが予想される時間外勤務手当の減収を考慮しても、
Xらが本件就業規則変更により被る実質的不利益は、
全体的にみれば必ずしも大きいものではありません。
次に、変更の必要性について検討すると、
本件では、金融機関における先行的な週休2日制導入に関する政府の強い方針と施行令の前記改正経過からすると、
Y銀行にとって、完全週休2日制の実施は、早晩避けて通ることができないものであったというべきです。
そして、週休2日制は、労働時間を大幅に短縮するものであるから、
平日の労働時間を変更せずに土曜日をすべて休日にすれば、一般論として、
提供される労働量の総量の減少が考えられ、
また、営業活動の縮小やサービスの低下に伴う収益減、
平日における時間外勤務の増加等が生ずることは当然です。
そこで、経営上は、賃金コストを変更しない限り、
右短縮分の一部を他の日の労働時間の延長によって埋め合わせ、
土曜日を休日とすることによる影響を軽減するとの措置を執ることは通常考えられるところであり、
特に既に労働時間が相対的に短いY銀行のような企業にとっては、
その必要性が大きいものと考えられます。
加えて、完全週休2日制の実施の際、ごく一部の銀行を除き、
平日の所定労働時間の延長措置が執られているというのであるから、
他の金融機関と同じ程度の競争力を維持するためにも、
就業規則変更の必要性があるということができます。
さらに、第三次改正就業規則の内容と他行における従業員の労働時間の一般的状況等をみると、
本件就業規則変更後の週36時間40分又は週40時間という所定労働時間は、
当時の我が国の水準としては必ずしも長時間ではなく、
他行と比較しても格別見劣りするものではありません。
そうすると、終業時刻の延長をせずに完全週休2日制だけを実施した場合には、
所定労働時間が週35時間にまで大幅に短縮されることも勘案すると、
本件就業規則変更については、その内容に社会的な相当性があるということができます。
以上によれば、本件就業規則変更によりXらに生ずる不利益は、
これを全体的、実質的にみた場合に必ずしも大きいものということはできず、
他方、Y銀行としては、完全週休2日制の実施に伴い平日の労働時間を画一的に延長する必要性があり、
変更後の内容も相当性があるということができるので、
従組がこれに強く反対していることやY銀行における従組の立場等を勘案しても、
本件就業規則変更は、右不利益をXらに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものであると認めるのが相当です。
したがって、本件就業規則変更は、Xらに対しても効力を生ずるものというべきです。
【まとめ】
就業規則変更により労働者に生ずる不利益は、
全体的、実質的にみた場合に必ずしも大きいものということはできず、
他方、銀行としては、完全週休2日制の実施に伴い、
平日の労働時間を画一的に延長する必要性があり、
変更後の内容も相当性があるということができます。
本件就業規則変更は、不利益を労働者に法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものです。
そのため、変更に同意しない労働者に対しても効力が及びます。
【関連判例】
→「秋北バス事件と就業規則の不利益変更」
→「第四銀行事件と就業規則の不利益変更」
→「福岡雙葉学園事件と期末勤勉手当の一方的減額」
→「函館信用金庫事件と就業規則の不利益変更」
→「明石運輸事件と就業規則と労働協約の関係」
→「日音事件と就業規則の周知」
→「中部カラー事件と就業規則の周知」
→「シンワ事件と事業場の過半数代表者の意見聴取義務」