福岡雙葉学園事件と期末勤勉手当の一方的減額

(最三小判平19.12.18)

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人事院勧告に準拠して給与規程を改定し、月例給を引き下げることを決定した上、

12月期の期末勤勉手当につき、改定後の給与規程に基づいて算定した額から、

その年の4月分から11月分までの給与の減額分を控除するなどの調整をして、

その支給額を定めることは認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yの就業規則には、「職員の給与ならびにその支給の方法については、

給与規程によりこれを定める。」との規定があり、

これを受けて定められたYの給与規程には、

「期末勤勉手当は、6月30日、12月10日および3月15日にそれぞれ在職する職員に対して、

その都度理事会が定める金額を支給する。」との規定があります。

Yは、昭和51年ころから、人事院が行う一般職国家公務員の給与改定についての勧告(以下「人事院勧告」という。)に倣って給与規程を改定してきました。

また、各年度の12月期の期末勤勉手当も、

その都度人事院勧告に準拠して決定し支給していました。

平成14年度および15年度の人事院勧告は、いわゆるマイナス勧告であったが、

Yは、11月理事会で、従前と同様に同勧告に従って、

給与規程を減額改定したうえで、それを4月期に遡って実施することにし、

12月期の期末勤勉手当においてそのための調整を行いました。

その結果、上記両年度の12月期の期末勤勉手当は減額支給されることになりました。

そこで、教職員として勤務しているXらは、

Yに対して、減額分などの支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yの期末勤勉手当の支給については、

給与規程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまるというのであって、

具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから、

前年度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事情がうかがわれない本件においては、

期末勤勉手当の請求権は、理事会が支給すべき金額を定めることにより、

初めて具体的権利として発生するものというべきです。

ところで、本件各期末勤勉手当の支給額については、各年度とも、

5月理事会における議決で、算定基礎額及び乗率が一応決定されたものの、

人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたというのであるから、

5月理事会において本件各期末勤勉手当の具体的な支給額までが決定されたものとはいえず、

本件各期末勤勉手当の請求権は、11月理事会の決定により、

初めて具体的権利として発生したものと解するのが相当です。

したがって、本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の11月理事会の決定が、

既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し又は、

変更するものであるということはできず、

同決定がこの観点から効力を否定されることはないものというべきです。

なお、仮に、5月理事会において議決された本件各期末勤勉手当の支給額算定方法の定めが、

Yの就業規則の一部を成す給与規程の内容となったものと解し、

11月理事会の決定が、その算定方法による額から更に本件調整のための減額をする点において、

Xらの労働条件を不利益に変更するものであると解する余地があるとしても、

前記事実関係によれば、Yにおいては、長年にわたり、

4月分以降の年間給与の総額について人事院勧告を踏まえて調整するという方針を採り、

人事院勧告に倣って毎年11月ころに給与規程を増額改定し、

その年の4月分から11月分までの給与の増額に相当する分について、

別途支給する措置を採ってきたというのであって、

増額の場合にのみそ及的な調整が行われ、

減額の場合にこれが許容されないとするのでは衡平を失するものというべきであるから、

人事院勧告に倣って本件調整を行う旨の11月理事会の決定は合理性を有するものであり、

同決定がこの観点からその効力を否定されることはないというべきです。

【まとめ】


本件においては、期末勤勉手当の請求権は、

理事会が支給すべき金額を定めることにより、

初めて具体的権利として発生するものというべきで、

5月理事会において具体的な支給額までが決定されたものとはいえず、

11月理事会の決定により、初めて具体的権利として発生しました。

したがって、11月理事会の決定が、

既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し、

変更するものであるということはできないので、

同決定がこの観点から効力を否定されることはありません。

【関連判例】


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