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懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為を理由として、
労働者を懲戒処分することは許されるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、ホテル等の経営等を目的とするYとの契約に基づき、
Yの経営する店舗で、マッサージの業務に従事していました。
平成5年8月31日、Xは、Y代表取締役のAに対し、休暇を請求しました。
それに対して、Aは、「勝手に休まれたのでは、仕事にならない。
お前みたいな者は、もう必要がないので辞めてくれ。明日から来なくてよい。」と告げました。
Xは、Yに対し現職復帰を求めたが、拒否されました。
Yは、Xが休暇を請求した行為が、
就業規則所定の懲戒事由である「正当な理由なく、しばしば無断欠勤し、
業務に不熱心であるとき」に該当している主張し、懲戒解雇処分としました。
また、Xは、本件契約締結時に、57歳であったにもかかわらず、
履歴書に45歳であると記載した履歴書をYに提出しており、
Yは右の意思表示後にこの事実を認識し、
就業規則所定の懲戒事由である「重要な経歴をいつわり、
その他不正な手段により入社したとき」に該当していると主張しました。
そこで、Xは、懲戒解雇の無効を求めて争いました。
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【判決の概要】
使用者が労働者に対して行う懲戒は、
労働者の企業秩序違反行為を理由として、
一種の秩序罰を課すものであるから、具体的な懲戒の適否は、
その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものです。
したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、
特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、
その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないものというべきです。
これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、
本件懲戒解雇は、Xが休暇を請求したことやその際の応接態度等を理由としてされたものであって、
本件懲戒解雇当時、Yにおいて、Xの年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、
右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできません。
【まとめ】
懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、
特段の事情のない限り、後から追加的に懲戒の理由とすることはできません。
【関連判例】
→「炭研精工事件と経歴詐称」
→「富士見交通事件と懲戒当時に使用者が認識していた非違行為」