行橋労基署長事件と歓送迎会終了後の送迎行為

(最二小判平28.7.8)

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労働者が業務を一時中断して、

事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後、

当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に、

研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは、

労働者災害補償保険法上の業務上の事由による災害に当たるのでしょうか。

【事件の概要】


Bは、株式会者A(以下「本件会社」という。)のa工場(以下「本件工場」という。)等において、

営業企画等の業務を担当していました。

E部長は、平成22年12月6日、中国人研修生3名の帰国の日が近づき、

次に受け入れる中国人研修生2名が来日してきたことから、

翌日に上記5名(以下「本件研修生ら」という。)の歓送迎会(以下「本件歓送迎会」という。)を開催することを企画し、

従業員全員に声を掛けたところ、B以外の従業員からは参加する旨の回答を得ました。

そして、同月7日、E部長は、Bに対し、

改めて本件歓送迎会への参加を打診したところ、

Bから「12月8日提出期限で、

D社長に提出すべき営業戦略資料を作成しなくてはいけないので、

参加できない。」と言われたが、

「今日が最後だから、顔を出せるなら出してくれないか。」と述べ、

また、上記資料(以下「本件資料」という。)が完成していなければ、

本件歓送迎会終了後にBとともに本件資料を作成する旨を伝えました。

本件歓送迎会は、同月7日午後6時30分頃から開始され、

Bは、本件歓送迎会が開始された後も、

本件工場において本件資料を作成していたが、その作成作業を一時中断し、

Bが使用していた本件会社の所有する自動車(以下「本件車両」という。)を運転して、

本件会社の作業着のまま本件飲食店に向かい、

本件歓送迎会の終了予定時刻の30分前であった同日午後8時頃、

本件飲食店に到着し、本件歓送迎会に参加しました。

Bは、同日午後9時過ぎ頃、

本件研修生らを本件アパートまで送った上で本件工場に戻るため、

酩酊状態の本件研修生らを同乗させて本件車両を運転し、

本件アパートに向かう途中、

対向車線を進行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故(以下「本件事故」という。)に遭い、

同日午後9時50分頃、本件事故による頭部外傷により死亡しました。

なお、本件工場と本件アパートは、いずれも本件飲食店からは南の方向に所在し、

本件工場と本件アパートとの距離は約2㎞でした。

Bの妻であるXは、平成23年11月21日及び同月30日、

行橋労働基準監督署長に対し、

労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、

同署長は、同24年2月29日付けで、

Bの死亡が業務上の事由によるものに当たらないことを理由に、

これらを支給しない旨の決定(以下「本件決定」という。)をしました。

そこで、Xは、本件決定の取り消しを求めて争いました。

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【判決の概要】


労働者の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「災害」という。)が、

労働者災害補償保険法に基づく業務災害に関する保険給付の対象となるには、

それが業務上の事由によるものであることを要するところ、

そのための要件の一つとして、

労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当です(最高裁昭和57年(行ツ)第182号同59年5月29日第三小法廷判決・裁判集民事142号183頁参照)。

前記事実関係等によれば、本件事故は、

D社長に提出すべき期限が翌日に迫った本件資料の作成業務を本件歓送迎会の開始時刻後も本件工場で行っていたBが、

当該業務を一時中断して本件歓送迎会に途中から参加した後、

当該業務を再開するため本件会社の所有に係る本件車両を運転して本件工場に戻る際、

併せて本件研修生らを送るため、

本件研修生らを同乗させて本件アパートに向かう途上で発生したものであるところ、

本件については、次の各点を指摘することができます。

ア、Bが本件資料の作成業務の途中で本件歓送迎会に参加して、

再び本件工場に戻ることになったのは、

本件会社の社長業務を代行していたE部長から、

本件歓送迎会への参加を個別に打診された際に、

本件資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず、

「今日が最後だから」などとして、

本件歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で、

本件資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず、

むしろ本件歓送迎会の終了後には本件資料の作成業務にE部長も加わる旨を伝えられたためであったというのです。

そうすると、Bは、E部長の上記意向等により本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、

その結果、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件工場に戻ることを余儀なくされたものというべきであり、

このことは、本件会社からみると、Bに対し、

職務上、上記の一連の行動をとることを要請していたものということができます。

イ、そして、上記アの経過でBが途中参加した本件歓送迎会は、

従業員7名の本件会社において、

本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で、

中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、

中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、

E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、

その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、

本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのです。

そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、

中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、

本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、

本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきです。

ウ、また、Bは、本件資料の作成業務を再開するため、

本件車両を運転して本件工場に戻る際、

併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ、

もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは、

本件歓送迎会の開催に当たり、

E部長により行われることが予定されていたものであり、

本件工場と本件アパートの位置関係に照らし、

本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、

BがE部長に代わってこれを行ったことは、

本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができます。

以上の諸事情を総合すれば、Bは、本件会社により、

その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、

本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、

本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、

併せてE部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、

本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、

本件研修生らを本件アパートまで送ることが、

E部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、

Bは、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきです。

また、本件事故によるBの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかです。

以上によれば、本件事故によるBの死亡は、

労働者災害補償保険法1条、12条の8第2項、

労働基準法79条、80条所定の業務上の事由による災害に当たるというべきです。

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