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派遣労働者と派遣先企業との間に、
黙示の労働契約が締結されたものと認められるのは、
どのような場合なのでしょうか。
【事件の概要】
Xらは、印刷業を営むAの従業員でした。
AとYは業務委託契約を結んでいたため、
Xらは、テレビ放送を業とするYに派遣され、
Y社内で放送業務及びタイプ印刷の業務に従事していました。
Xらは、業務の遂行につき、必要があればYから直接具体的な指示を受けており、
Y社内の作業室やロッカーの使用も認められていました。
一方、Xらの出退勤管理やこれに基づく賃金計算の管理はAが行っており、
勤務時間や休日はYの従業員と異なった扱いがされていました。
その後、XらとAとの関係が悪化し、Aは事業を閉鎖することとなり、
AはYとの業務委託契約を合意解除しました。
Xらは、Aの事業閉鎖とともに解雇されたため、
Yに対して、労働契約関係が成立しているとして争いました。
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【判決の概要】
労働契約といえども、もとより黙示の意思の合致においても成立するものであるから、
事業場内下請労働者(派遣労働者)の如く、
外形上親企業(派遣先企業)の正規の従業員と殆ど差異のない形で労務を提供し、
したがって、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、
しかも、派遣元企業がそもそも企業としての独自性を有しないとか、
企業としての独立性を欠いていて、
派遣先企業の労務担当の代行機関と同一視しうるものである等その存在が形式的名目的なものに過ぎず、
かつ、派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、
派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認めうべき余地があることはいうまでもありません。
しかし、Aは、Yから資本的にも人的にも全く独立した企業であって、
YからもXらからも実質上の契約主体として契約締結の相手方とされ、
現にXら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、
身分上の監督を行っていたものであり、
したがって、派遣先企業であるYの労務担当代行機関と同一視しうるような形式的、
名目的な存在に過ぎなかったというのは当たりません。
また、他方、Yは、Aが派遣労働者を採用する際にこれに介入することは全くなく、
かつ、業務請負の対価としてAに支払っていた本件業務委託料は、
派遣労働者の人数、労働時間量にかかわりなく、
一定額と約定していたのであるから、
YがXら派遣労働者の賃金額を実質上決定していたということは到底できません。
したがって、YとXら派遣労働者との間に黙示の労働契約が締結されたものと認める根拠は見出し得ないというほかありません。
【まとめ】
派遣労働者が、派遣先企業の正規の従業員と殆ど差異のない形で労務を提供し、
したがって、派遣先企業との間に事実上の使用従属関係が存在し、
しかも、派遣元企業がそもそも企業としての独立性を欠いていて、
その存在が形式的名目的なものに過ぎず、
かつ、派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件を決定していると認めるべき事情のあるときには、
派遣労働者と派遣先企業との間に黙示の労働契約が締結されたものと認められる場合があります。
【関連判例】
→「朝日放送事件と使用者」
→「黒川建設事件と親会社の労働契約上の責任」
→「徳島船井電機事件と親会社の労働契約上の責任」
→「大映映像ほか事件と黙示の労働契約の成立」