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国の国家公務員に対する安全配慮義務の有無の裁判ですが、
使用者(国)が安全配慮義務を負うことを明言した初めての最高裁判決として、
重要な意義をもつ裁判となりました。
【事件の概要】
自衛隊員のAは、自衛隊駐屯地で車両整備に従事していたところ、
後進してきた同僚自衛隊員Bの運転する大型自動車の後輪に頭部を轢かれて死亡しました。
Aの両親であるXらは、国家公務員災害補償法に基づく補償金を支給されたが、
その額には不満でした。
その後、XらはAの使用者であるY(国)に対して、
自動車損害賠償保障法3条の基づき損害賠償を請求しました。
第1審は、Yの消滅時効の援用を認めて、Xらの請求を棄却しました。
Xらは、Yの安全配慮義務の不履行を追加主張し控訴しました。
控訴審は、この債務不履行に基づく損害賠償請求を、
Aが特別権力関係に基づきYのために服務していたことを理由に棄却したため、
Xらは、上告しました。
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【判決の概要】
国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、
法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法101条1項前段、自衛隊法60条1項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法98条1項、自衛隊法56条、57条等)を負い、
国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法62条、防衛庁職員給与法4条以下等)を負うことを定めているが、
国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、
国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、
公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っているものと解すべきです。
もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、
公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであり、
自衛隊員の場合にあっては、更に当該勤務が通常の作業時、
訓練時、防衛出動時(自衛隊法76条)、治安出動時(同法78条以下)又は災害派遣時(同法83条)のいずれにおけるものであるか等によっても異なりうべきものであるが、
国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負っているほかは、
いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできません。
けだし、右のような安全配慮義務は、
ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、
当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が、
相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、
国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、
公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、
国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、
また、国家公務員法93条ないし95条及びこれに基づく国家公務員災害補償法、
並びに、防衛庁職員給与法27条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、
この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからです。
【まとめ】
国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、
施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、
公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っており、
その具体的内容は、公務員の職種、
地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なります。
安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて、
特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、
当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が、
相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものです。
【関連判例】
→「川義事件と安全配慮義務」
→「陸上自衛隊第331会計隊事件と国の安全配慮義務」
→「三菱重工業神戸造船所事件と元請企業の安全配慮義務」
→「山田製作所(うつ病自殺)事件と使用者の安全配慮義務違反」
→「前田道路事件と安全配慮義務」
→「日本政策金融公庫(うつ病・自殺)事件と安全配慮義務」
→「東芝(うつ病・解雇)事件と過失相殺」
→「NTT東日本北海道支店事件と過失相殺」