学校法人専修大学事件と打切補償

(最二小判平27.6.8)

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労働者災害補償保険法による療養補償給付を受ける労働者について、

使用者が労働基準法81条所定の打切補償の支払をすることにより、

解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受けることはできるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、平成9年4月1日に学校法人であるYとの間で労働契約を締結して、

Yにおいて勤務していたが、同14年3月頃から肩凝り等の症状を訴えるようになり、

同15年3月13日、頸肩腕症候群(以下「本件疾病」という。)にり患しているとの診断を受けました。

Xは、同年4月以降、本件疾病が原因で欠勤を繰り返すようになり、

平成18年1月17日から長期にわたり欠勤しました。

平成19年11月6日、中央労働基準監督署長は、

同15年3月20日の時点で本件疾病は業務上の疾病に当たるものと認定し、

Xに対し、療養補償給付及び休業補償給付を支給する旨の決定をしました。

これを受けて、Yは、同年6月3日以降のXの欠勤について、

本件規程13条所定の業務災害による欠勤に当たるものと認定しました。

Yは、平成21年1月17日、Xの同18年1月17日以降の欠勤が3年を経過したが、

本件疾病の症状にはほとんど変化がなく、

就労できない状態が続いていたことから、本件規程13条2号に基づき、

Xを同21年1月17日から2年間の休職としました。

平成23年1月17日に上記の休職期間が経過したが、

Xは、Yからの復職の求めに応じず、Yに対し職場復帰の訓練を要求しました。

これを受けて、Yは、Xが職場復帰をすることができないことは明らかであるとして、

同年10月24日、本件規程9条所定の打切補償金として、

平均賃金の1200日分相当額を支払った上で、

同月31日付けでXを解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をしました。

そこで、Xは、解雇の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


労災保険法は、業務上の疾病などの業務災害に対し、

迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を目的として制定され、

業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基準法と同日に公布、施行されています。

業務災害に対する補償及び労災保険制度については、

労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方、

労災保険法12条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており、

これらの関係につき、同条2項が、

療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給付は労働基準法75条から77条まで、

79条及び80条において使用者が災害補償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定し、

同法84条1項が、労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合には、

使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなどしています。

また、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保険給付の内容は、

労働基準法75条から77条まで、79条及び80条の各規定に定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっています。

上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると、

業務災害に関する労災保険制度は、

労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、

その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、

使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、

このような労災保険法に基づく保険給付の実質は、

使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当です(最高裁昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第3小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)。

このように、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保険給付は、

これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということができます。

労働基準法81条の定める打切補償の制度は、

使用者において、相当額の補償を行うことにより、

以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに、

同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし、

当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度であるといえるところ、

上記のような労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば、

同法において使用者の義務とされている災害補償は、

これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合には、

それによって実質的に行われているものといえるので、

使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで、

同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難いです。

また、後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても、

傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば、

これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ、

労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難いです。

そうすると、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は、

解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては、

同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当です。

したがって、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、

療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、

労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に、

使用者は、当該労働者につき、同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、

解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当です。

これを本件についてみると、

Yは、労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受けているXが療養開始後3年を経過してもその疾病が治らないことから、

平均賃金の1200日分相当額の支払をしたものであり、

労働基準法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれる者に対して、

同法81条の規定による打切補償を行ったものとして、

同法19条1項ただし書の規定により、本件について同項本文の解雇制限の適用はなく、

本件解雇は同項に違反するものではないというべきです。

【労働基準法19条(解雇制限)】


使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。

◯2 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。

【労働基準法75条(療養補償)】


労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。

◯2 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

【労働基準法81条(打切補償)】


第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。

【まとめ】


労働者災害補償保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が、

療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には、

使用者は、当該労働者につき、

労働基準法81条の規定による打切補償の支払をすることにより、

解雇制限の除外事由を定める同法19条1項但書の適用を受けることができます。

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