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勤務に服さなかった同僚の出勤表に、
タイム・レコーダーで退出時刻を不正打刻した労働者に対する懲戒解雇は、
有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Y社に勤務する労働組合執行委員のAとBは、
午後4時から11時まで勤めるシフトに出勤して、
タイムカードに打刻をしました。
Bは組合書記長の代わりに組合の会議に出席しなければならなくなり、
3時間遅刻する旨の遅刻届を会社に提出して退社したが、
当日は勤務しませんでした。
しかし、Aは勤務終了後、職場を退出する際に自己のタイムカードへの打刻とともに、
Bのカードにも打刻しました。
この行為が翌日発覚し、Y社はA、B両名ともに懲戒解雇としました。
そこで、Aは懲戒解雇の無効を求めて争いました。
なお、Y社は「出社せずして記録を同僚に依頼する如き不正ありし場合は依頼した者依頼された者共に解雇する。」との告示を掲示し、
その旨を従業員全員に周知徹底させていました。
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【判決の概要】
原審は、上告人会社が本件懲戒解雇をなすにいたつた事情として、
Yでは、もと従業員の出勤、退出につき、
現場の長が逐一これを出勤表に記入することにしていたが、
ともすれば不正確となり、従業員の間に苦情、不満があったので、
かかる弊害をなくするため、昭和35年4月1日、タイム・レコーダーを備え付け、
1か月の準備期間を置いて従業員がその使用に習熟するのをまって、
同年6月1日から本格的な実施に入ったこと、
ところが、その後間もなく、他人の出勤表に不正打刻をする者が現われるようになり、
会社としては、出勤表打刻の時刻が給料算定の基礎となるところから、
事態を重視し、かかる不正行為の絶滅を期せんとして、
同年6月19日総務部長名をもって、「出社せずして記録を同僚に依頼する如き不正ありし場合は依頼した者依頼された者共に解雇する。」との告示を掲示し、
その旨を従業員全員に周知徹底させていたこと、
Aは、右の警告を熟知していたにもかかわらず、あえてこれを無視し、
前記不正打刻に及んだことを確定しています。
しからば、このような事実関係の下においては、
Aの右不正打刻をもって、
ふとしたはずみで偶発的になされたものであるとする原審の前記認定は、
極めて合理性に乏しく、他にこれを納得し得るに足る特段の事情の存しない限り、
右の一事をもって、
直ちに本件懲戒解雇が懲戒権の濫用にわたるものとはなし得ないといわなければなりません。
【まとめ】
タイムレコーダーの不正打刻について、
依頼者も被依頼者も解雇する旨を周知していた状況下では、
直ちに本件懲戒解雇が懲戒権の濫用にわたるものとはいえません。
【関連判例】
→「高知放送事件と解雇権の濫用」
→「ダイハツ工業事件と使用者の懲戒権」