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会社の従業員であった者が退職して執行役員に就任し、
その後退任した場合において、
会社に対し退職慰労金の支払を請求することはできるのでしょうか。
【事件の概要】
Xは、Y社の執行役員を平成12年6月から4年間務めました。
Xが執行役員を退任する際、Yの業績が極めて悪化し、
資金が枯渇して経営破たんの危機に直面していたため、
Yは、Xに対して、退職慰労金の支給はしませんでした。
そこで、Xは、Yに対し、
その内規である執行役員退職慰労金規則(同15年1月1日施行のもの。以下「旧規則」という。)所定の金額の退職慰労金の支払は、
明示的又は黙示的に執行役員就任契約における合意の内容となっていたなどと主張して、
その支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
(1) Yは、取締役の人数が多数に上り、
取締役会における経営判断を迅速に行い得ない面があったことなどから、
経営判断の適正迅速化、責任及び権限の明確化等を目的として、
執行役員の制度を導入することとし、
平成12年4月、取締役の人数を36名から10名に減少させるとともに、
事業分野、機能分野ごとに業務執行の責任及び権限を有する32名の執行役員(うち4名は取締役兼務)を設けました。
(2) 同制度の下において、執行役員は、
従前は取締役が就いていた職務上の地位に就任し、報酬額その他の待遇面においても、
従前の取締役と同等の待遇が保障されていました。
また、Yの執行役員規則によれば、従業員であった者が執行役員に就任する場合、
いったん退職した上で、取締役会からの委任により執行役員に就任することとされていました。
Xも、従業員を退職して執行役員に就任するに当たり、
従業員としての退職金を受領したが、
その退職金額とXが執行役員在任中に得た報酬総額との合計額は、
Xに対し旧規則所定の金額の退職慰労金が支給されなかったとしても、
Xが執行役員に就任することなく従業員の最高職位である部長職を4年間務めたと仮定した場合の給与総額と、
その場合に受け取ることとなる従業員としての退職金額との合計額を約3000万円上回るものでした。
(3) Yにおける執行役員退職慰労金規則は、
代表取締役の決裁で作成、改定される内規であり、
実際にも頻繁に改定されてきたが、Xの退職時まで、
その内容が執行役員に対して開示されたことはありませんでした(同規則においては、これらの改定の前後を通じ、同規則は退任する執行役員に対し退職慰労金を支給する場合に適用するものと定められており、これを必ず支給する旨の規定又は一定の要件の下に支給する旨の規定は置かれていませんでした。)。
(4) なお、Yが平成16年度及び同17年度に退任する執行役員(Xもこれに含まれる。)に対し退職慰労金の支給を見送る措置を講じた(これに合わせ旧規則も改定した)のは、
Yの関連会社における不祥事が顕在化して以降、Yの業績が極めて悪化し、
資金が枯渇して経営破たんの危機に直面したことによるものであり、
上記措置と併せて、上記各年度に退任する取締役に対しても退職慰労金の支給を見送るとともに、
取締役及び執行役員の報酬を30%ないし50%削減し、
従業員の給与も5%ないし10%削減する措置が講じられました。
上記事実関係の下においては、Yが退任する執行役員に対して支給してきた退職慰労金は、
功労報償的な性格が極めて強く、執行役員退任の都度、
代表取締役の裁量的判断により支給されてきたにすぎないものと認められるから、
Yが退任する執行役員に対し退職慰労金を必ず支給する旨の合意や事実たる慣習があったということはできず、
他にXに対し退職慰労金を支給すべき根拠も見当たりません。
そうすると、XはYに対し、旧規則所定の金額の退職慰労金の支払を請求することはできないものというべきです。
【まとめ】
会社が従前支給してきた内規所定の金額の退職慰労金は、
功労報償的な性格が極めて強く、執行役員退任の都度、
代表取締役の裁量的判断により支給されてきたにすぎません。
そのため、会社に対し退職慰労金の支払を請求することはできません。