改進社事件と外国人労働者の逸失利益の算定

(最三小判平9.1.28)

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一時的に我が国に滞在し、

将来出国が予定される外国人の逸失利益の算定方法は、

どのように判断されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、パキスタン回教共和国(パキスタン・イスラム共和国)の国籍を有する者であり、

昭和63年11月28日、我が国において就労する意図の下に、

同共和国から短期滞在(観光目的)の在留資格で我が国に入国し、

翌日からYに雇用されました。

在留期間経過後も不法に残留し、継続してYにおいて製本等の仕事に従事していたところ、

平成2年3月30日、XはYの工場内で製本機を用いてパンフレットの中綴じ作業を行っていた際、

製本機に右手人さし指を挟まれその末節部分を切断するという事故に被災して、

後遺障害を残す負傷をしたものであり、

その後も、国内に残留し、同年4月19日から同年8月23日までの間は、

別の製本会社で就労していました。

Xは、上記事故に関し労災保険から休業補償給付(約13万3,000円)及び、

障害補償給付(約164万5,000円)の支給を受けたほか、

Yから約18万円の支払いを受けていました。

そのうえで、Xは安全配慮義務違反及び不法行為に基づき、

Y及びYの代表取締役に対して損害賠償を請求しました。

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【判決の概要】


財産上の損害としての逸失利益は、

事故がなかったら存したであろう利益の喪失分として評価算定されるものであり、

その性質上、種々の証拠資料に基づき相当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として算定せざるを得ません。

損害の填補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠償の目的からして、

右算定は、被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当です。

こうした逸失利益算定の方法については、

被害者が日本人であると否とによって異なるべき理由はありません。

したがって、一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益を算定するに当たっては、

当該外国人がいつまで我が国に居住して就労するか、

その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就労することになるか、

などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる程度に予測し、

将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになります。

そうすると、予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、

その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利益を算定するのが合理的ということができます。

そして、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、

在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、

就労資格の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素を考慮して、

これを認定するのが相当です。

原審は、右事実関係の下において、

Xが本件事故後に勤めた製本会社を退社した日の翌日から3年間は我が国において、

Yから受けていた実収入額と同額の収入を、

その後は来日前にパキスタン回教共和国(パキスタン・イスラム共和国)で得ていた収入程度の収入を得ることができたものと認めるのが相当であるとしたが、

Xの我が国における就労可能期間を右の期間を超えるものとは認めなかった原審の認定判断は、

右に説示したところからして不合理ということはできず、

原判決に所論の違法があるとはいえません。

労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号)に基づく休業特別支給金、

障害特別支給金等の特別支給金の支給は、

労働者災害補償保険法に基づく本来の保険給付ではなく、

労働福祉事業の一環として、

被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(平成7年法律第35号による改正前の労働者災害補償保険法23条1項2号、同規則1条)、

使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、

保険給付の場合のような調整規定(同法64条、12条の4)もありません。

このような保険給付と特別支給金との差異を考慮すると、

特別支給金が被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず、

被災労働者が労働者災害補償保険から受領した特別支給金をその損害額から控除することはできないと解するのが相当です(最高裁平成6年(オ)第992号同8年2月23日第2小法廷判決・民集50巻2号249頁参照)。

これと異なり、Xが労働者災害補償保険から支給を受けた特別支給金合計35万3787円をXの財産的損害の額から控除した第1審及び原審の判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければなりません。

【まとめ】


一時的に我が国に滞在し、

将来出国が予定される外国人の事故による逸失利益を算定するに当たっては、

予測される我が国での就労可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、

その後は想定される出国先での収入等を基礎とするのが合理的であり、

我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、

在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、

就労資格の有無、就労の態様等の事実的に及び規範的な諸要素を考慮して認定します。

【関連判例】


「コック食品事件と特別支給金の控除」