東都観光バス事件と労災保険給付と慰謝料

(最三小判昭58.4.19)

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使用者は、労働者災害補償保険法による障害補償一時金及び休業補償給付を、

被災労働者の慰謝料から控除することはできるのでしょうか。

【事件の概要】


昭和47年10月22日、観光バスの副運転手Xが、

誘導のため下車しようとしたときに、同僚運転手が前進発進したため、

そのバスに着地していた左足を轢過されました。

そこで、Xは、事故によって被った財産上の損害として後遺症による逸失利益、

精神上の損害として慰籍料等損害の発生を主張しました。

使用者であるYは、Xは障害補償一時金のほか、労災保険による休業補償金、

Yの共済会から支払われた休業補償金等を受領したから、

本件事故によるXの損害は填補されていると主張しました。

原判決は、X主張の後遺症による逸失利益は存在しないから、

右の損害の発生は認められないとし、

慰謝料については、諸般の事情を考慮して200万円の損害の発生を認定したうえ、

過失相殺により右認定にかかる慰謝料200万円からその2割を減じたのちの160万円から、

前記受領ずみの障害補償一時金及び前記受領ずみの各金員を控除しました。

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【判決の概要】


労働者に対する災害補償は、

労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、

精神上の損害の填補の目的をも含むものではないから(最高裁昭和35年(オ)第381号同37年4月26日第1小法廷判決・民集16巻4号975頁、同昭和38年(オ)第1035号同41年12月1日第1小法廷判決・民集20巻10号2017頁参照)、

前記Xが受領した労災保険による障害補償一時金及び休業補償金のごときは、

Xの財産上の損害の賠償請求権にのみ充てられるべき筋合のものであって、

Xの慰藉料請求権には及ばないものというべきであり、

従って、Xが右各補償金を受領したからといって、

その全部ないし一部をXの被った精神上の損害を填補すべきものとして認められた慰謝料から控除することは許されないというべきです。

【まとめ】


 労働者災害補償保険法による障害補償一時金及び休業補償給付は、

被災労働者の被った財産上の損害の填補のためにのみされるものであって、

精神上の損害を填補するためのものではないので、

これを被災労働者の慰謝料から控除することは許されません。