三井美唄炭鉱労組事件と労働組合の統制権

(最大判昭43.12.4)

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労働組合が地方議会議員の選挙にあたり、

統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進している場合に、

統一候補の選にもれた組合員が、

組合の方針に反して立候補しようとするときは、

立候補を取りやめることを要求し、

従わないときは統制違反者として処分することは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xらは、B労働組合の執行機関を構成する役員であるが、

同組合は、昭和34年施行のC市議会議員選挙に際して、

組合員の中から組合機関の議決を経て統一候補を推薦し、

その選挙運動を推進する方法に則って、統一候補の確認決定を行いました。

ところが、前回選挙に統一候補として当選した組合員Aは、

任期中定年退職となる者は推薦しない基準に基づき候補者に選出されなかったので、

統一候補として推薦されませんでした。

それでもAは独自の立場で市議選に立候補しようとしたので、

Xらは、票割れを防ぐため、Aに立候補を断念するよう、

何度か説得を試みたがAは拒絶しました。

そのためXらは、Aに対し、組合規約に基づく処分がある旨の圧力をかけ、

さらに、市議選に当選したAに対し、統制違反者として、

1年間組合員としての権利を停止する旨通告し、公示書を掲示しました。

Xらは、公職選挙法225条3号違反として起訴されました。

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【判決の概要】


労働基本権を保障する憲法28条も、さらに、これを具体化した労働組合法も、

直接には、労働者対使用者の関係を規制することを目的としたものであり、

労働者の使用者に対する労働基本権を保障するものにほかなりません。

ただ、労働者が憲法28条の保障する団結権に基づき労働組合を結成した場合において、

その労働組合が正当な団体行動を行なうにあたり、

労働組合の統一と一体化を図り、その団結力の強化を期するためには、

その組合員たる個々の労働者の行動についても、組合として、

合理的な範囲において、これに規制を加えることが許されなければならない(以下、これを組合の統制権とよぶ。)。

およそ、組織的団体においては、一般に、その構成員に対し、

その目的に即して合理的な範囲内での統制権を有するのが通例であるが、

憲法上、団結権を保障されている労働組合においては、

その組合員に対する組合の統制権は、一般の組織的団体のそれと異なり、

労働組合の団結権を確保するために必要であり、かつ、合理的な範囲内においては、

労働者の団結権保障の一環として、憲法28条の精神に由来するものということがでます。

この意味において、憲法28条による労働者の団結権保障の効果として、

労働組合は、その目的を達成するために必要であり、かつ、合理的な範囲内において、

その組合員に対する統制権を有するものと解すべきです。

さきに説示したように、労働組合は、

その目的を達成するために必要な政治活動等を行なうことを妨げられるわけではありません。

したがって、本件の地方議会議員の選挙にあたり、

いわゆる統一候補を決定し、組合を挙げて選挙運動を推進することとし、

統一候補以外の組合員で立候補しようとする組合員に対し、

立候補を思いとどまるように勧告または説得することも、

その限度においては、組合の政治活動の一環として、許されるところです。

また、他面において、労働組合が、その団結を維持し、

その目的を達成するために、組合員に対し、統制権を有することも、前叙のとおりです。

しかし、労働組合が行使し得べき組合員に対する統制権には、

当然、一定の限界が存するものといわなければなりません。

殊に、公職選挙における立候補の自由は、憲法15条1項の趣旨に照らし、

基本的人権の一つとして、憲法の保障する重要な権利であるから、

これに対する制約は、特に慎重でなければならず、

組合の団結を維持するための統制権の行使に基づく制約であっても、

その必要性と立候補の自由の重要性とを比較衡量して、その許否を決すべきであり、

その際、政治活動に対する組合の統制権のもつ前叙のごとき性格と、

立候補の自由の重要性とを十分考慮する必要があります。

原判決の確定するところによると、

本件労働組合員たるAが組合の統一候補の選にもれたことから、

独自に立候補する旨の意思を表示したため、Xら組合幹部は、

Aに対し、組合の方針に従つて右選挙の立候補を断念するよう再三説得したが、

Aは容易にこれに応ぜず、あえて独自の立場で立候補することを明らかにしたので、

ついに説得することを諦め、組合の決定に基づいて本件措置に出たというのです。

このような場合には、統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、

組合が所期の目的を達成するために、立候補を思いとどまるよう、

勧告または説得をすることは、組合としても、当然なし得るところです。

しかし、当該組合員に対し、勧告または説得の域を超え、

立候補を取りやめることを要求し、

これに従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分するがごときは、

組合の統制権の限界を超えるものとして、違法といわなければなりません。

【まとめ】


労働組合が、地方議会議員の選挙にあたり、

統一候補以外の組合員で立候補しようとする者に対し、

立候補を断念するよう勧告又は説得することは許されるが、

その域を超えて、立候補を取りやめることを要求し、

これに従わないことを理由に統制違反者として処分することは、

組合の統制権の限界を超えるものとして許されません。