電電公社千代田丸事件と生命・身体に対する危険を伴う業務命令

(最三小判昭43.12.24)

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使用者が発した生命の危険を伴う業務命令対して、

労働者は従う義務はあるのでしょうか。

【事件の概要】


Xらは、日本電信電話公社Yに雇用された者です。

昭和31年日韓間の海底線のある地点において障害が発生したため、

Yは、海底線の専用契約を締結している在日米軍から修理の要請を受け、

その修理を敷設船D丸に担当させることにしました。

その頃、労働組合の全電通本社支部は、

この工事に関する労働条件等についてYと団交中でした。

本社支部は、「Y側が一方的にY側案を押し付けて出航させようとしている」とし、

「出航命令が出ても出航に応ずるな」との闘争連絡を発しました。

出航命令を受けたD丸船長は命令を発したが、

組合員である一等航海士等が所定の職務につかず、出航することができませんでした。

Yは、本社支部の役員であるXらが共謀して争議行為をあおり、

そそのかしたものとして、Xらを解雇しました。

そこで、Xらは、解雇の無効を求めて争いました。

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【判決の概要】


本件当時、布設船の朝鮮海峡への出航に伴って生ずべき「危険」の評価については、

他の海域における場合に比して、気分的に好ましくないと感ずるか、

または相対的・主観的にある程度の危険として感ずるのが自然であろうとするにとどまり、

Xら主張のように、D丸乗組員の労働契約上の義務の履行としての出航を阻み、

この義務の強制が許されないとする程度の危険が存したものとはいえない、とするのである。

しかしながら、現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、

この危険がたんなる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず、

また、前述のように、従前、朝鮮海峡への出航につき、

危険海面手当、壮行会費、超過勤務手当等の支給に関する団体交渉が妥結して後に、

布設船の出航が行なわれたというのも、動乱終結後においてなお、

この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからにほかならない、

というべきであり(労使双方において客観的危険性の解消を知りつつ、

あえて不要の支出をしたものとするのは相当でない。)、

右危険を評価するにあたって、前記李ラインの一方的設定および撃沈声明等により醸成された、

わが国と韓国との間の当時における異常な緊迫状態を度外視することは、

許されないといわなければなりません。

本件D丸の出航についても、米海軍艦艇の護衛が付されることによる安全措置が講ぜられたにせよ、

これが必ずしも十全といいえないことは、

前記((一)4のロ)実弾射撃演習との遭遇の例によっても知られうるところであり、

かような危険は、労使の双方がいかに万全の配慮をしたとしても、

なお避け難い軍事上のものであって、

海底線布設船たるD丸乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、

また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、

なお、労働契約の当事者たるD丸乗組員において、

その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難いところです。

組合側と公社側との間の団体交渉は未だ妥結をみるに至らず、

しかも、右説示のように、本件航海および海底線修理作業が必ずしも危険なきを保し難いと判断されるべき当時の事情のもとにおいて、

YがD丸乗組員に対し本件出航を強制する業務命令を発することは、

Yとしてはやむをえない事情があったとしても、

組合側に対しては、十分の説得力をもつ措置とはいい難く、

右説示のような事情のもとにXのした前記行為をもって直ちに公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)17条に違反するものと断ずることは、

いささか酷に失するものといわなければならず、

かりに、右違反があるとしても、その違法性の度合いは、

きわめて軽微であったというべきです。

ところで、公労法18条は、同法17条の規定に違反する行為をした職員は、

「解雇されるものとする。」と規定しています。

しかし、同条の趣旨とするところは、右の違反行為をした職員は、

当然にその地位を失うとか、一律に必ず解雇されるべきであるというのではなく、

例えば日本電信電話公社法31条、33条等の定める職員の身分保障に関する規定にかかわらず、

解雇することができるというにあり、解雇するかどうか、

その他どのような措置をするかは、職員のした違反行為の態様・程度に応じ、

公社の合理的な裁量に委ねる趣旨と解するのが相当です。

そして、職員の労働基本権を保障した憲法の根本精神に照らし、

また、職員の身分を保障している右公社法の趣旨にかんがみると、

職員に対する不利益処分は、必要な限度を超えない合理的な範囲にとどめなければならないものと解すべきです。

本件についてみるに、Xのした前記行為は、

D丸の出航を予定時刻より25時間余遅延せしめはしたが、

D丸は、けっきょく出航し、予定の修理工事を終えて帰着したのであって、

出航の遅延によって公社に対し何らかの実害を与えたことは原審の確定しないところです。

ことに、前叙のように、出航にあたり、組合側が公社側と団体交渉をすることは、

法律上も許容されているところであり、本件航海に至るまで、

交渉が妥結しなければ出航しない旨の合意ないし慣行が成立していたとはいえないにしても、

交渉が妥結してから出航するのが例であったという事実に徴すれば、

前示のような事情のもとに、XらがD丸の本件出航を一時阻害したというだけの理由によってされた本件解雇は、

妥当性・合理性を欠き、Yに認められた合理的な裁量権の範囲を著しく逸脱したものとして、無効と解すべきです。

【まとめ】


本来の予想を超えた生命の危険が現実に起こりうる業務命令は、

その危険が必ずしも大きいものでないとしても、

労働者は、その意に反して義務の履行を強制されることはありません。

【関連判例】


「電電公社帯広局事件と就業規則の法的性質」
「富士重工業事件と調査協力義務」