新宿労基署長(映画撮影技師)事件と労働者性

(東京高判平14.7.11)

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映画撮影に従事する契約を締結したフリーカメラマンは、

労災保険法上の「労働者」に該当するのでしょうか。

【事件の概要】


Xは映画撮影技師であり、昭和60年10月15日、Bプロとの間で、

映画を撮影するための撮影技師として撮影業務に従事する契約を締結しました。

撮影は、昭和60年10月から昭和61年5月までの間で、

その間に東北地方のロケ3回、延べ50日間が予定されていました。

Xは、映画撮影のため、東北地方でのロケーション期間中である昭和61年2月19日早朝、

宿泊していた旅館で倒れ、入院治療を受けたが、

同月23日、脳梗塞により死亡しました。

Xの子であるAは、亡Xの死亡は業務に起因したものであるとして、

Y労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づく遺族補償給付の請求をしたが、

亡Xは労働基準法第9条に規定する「労働者」ではないとの理由で不支給処分を受けました。
 
そこで、Aは、処分を不服として、処分の取り消しを求めて争いました。

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【判決の概要】


労災保険法の保険給付の対象となる労働者の意義については、

同法にこれを定義した規定はないが、

同法が労基法第8章「災害補償」に定める各規定の使用者の労災補償義務を補填する制度として制定されたものであることにかんがみると、

労災保険法上の「労働者」は、労基法上の「労働者」と同一のものであると解するのが相当です。

そして、労基法9条は、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と規定しており、

その意とするところは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、

その対価として使用者から賃金の支払を受ける者をいうと解されるから、

「労働者」に当たるか否かは、雇用、請負等の法形式にかかわらず、

その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべきものであり、

以上の点は原判決も説示するところです。

そして、実際の使用従属関係の有無については、

業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、支払われる報酬の性格・額、

使用者とされる者と労働者とされる者との間における具体的な仕事の依頼、

業務指示等に対する諾否の自由の有無、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、

労務提供の代替性の有無、業務用機材等機械・器具の負担関係、専属性の程度、

使用者の服務規律の適用の有無、公租などの公的負担関係、

その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当です。

亡Xの本件映画撮影業務については、亡XのBプロへの専属性は低く、

Bプロの就業規則等の服務規律が適用されていないこと、

亡Xの本件報酬が所得申告上事業所得として申告され、

Bプロも事業報酬である芸能人報酬として源泉徴収を行っていること等使用従属関係を疑わせる事情もあるが、

他方、映画製作は監督の指揮監督の下に行われるものであり、

撮影技師は監督の指示に従う義務があること、本件映画の製作においても同様であり、

高度な技術と芸術性を評価されていた亡Xといえどもその例外ではなかったこと、

また、報酬も労務提供期間を基準にして算定して支払われていること、

個々の仕事についての諾否の自由が制約されていること、

時間的・場所的拘束性が高いこと、労務提供の代替性がないこと、

撮影機材はほとんどがBプロのものであること、

Bプロが亡Xの本件報酬を労災保険料の算定基礎としていること等を総合して考えれば、

亡Xは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供していたものと認めるのが相当であり、

したがって、労基法9条にいう「労働者」に当たり、

労災保険法の「労働者」に該当するというべきです。

【労働基準法9条(労働者の定義)】


この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

【関連判例】


「横浜南労基署長(旭紙業)事件と労働者の定義」
「藤沢労基署長(大工負傷)事件と労働者の定義」
「安田病院事件と黙示の労働契約」
「INAXメンテナンス事件と労働者性」
「CBC管弦楽団事件と労働者性」
「関西医科大学研修医(未払賃金)事件と研修医の労働者性」
「新国立劇場運営財団事件と労働組合法上の労働者」