ユナイテッド航空事件と配偶者手当

(東京地判平13.1.29)

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労働協約や就業規則で支給基準等が定められている配偶者手当は、

労働基準法上の賃金に当たるのでしょうか。

【事件の概要】


アメリカにおいて航空機運航を目的とする会社Yは、

A航空会社からの営業譲渡に伴い、

A社の日本支社と同一の場所に営業所を置き、

元A社の社員をそのまま移籍させることとなったことにより、

Yに勤務することとなった元A社の社員X(未婚女性)が、

Yの日本支社でもA社の従業員に適用されてきたA社時代の労働協約に沿う協約が締結され、

就業規則が定められたところ、

Yが従業員に対する賃金として、

配偶者の収入金額による支給制限を設けずに、

婚姻していることのみを要件として、

共働き労働者への二重支給を認めて配偶者手当を支給していることは、

労働基準法3条の信条又は社会的身分を理由とする差別的取扱いに当たり、

憲法14条、24条に違反して公序良俗に反する違法・無効なものである等として、

不当な差別により支払を受けられなかった配偶者手当相当額の損害賠償及び慰謝料を請求しました。

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【判決の概要】


本件配偶者手当支給規定により支給される家族手当は、

Yの就業規則中の賃金規定において支給する旨定められており、

具体的金額については、YとY従業員の唯一の組合であるユナイテッド労組間で毎年締結される労働協約において定められているものであり、

Yが従業員に支給している家族手当は、

具体的支給条件が明確になっているものであり、

労働基準法11条の労働の対償としての賃金に当たるものと認められます。

憲法第3章の人権規定は、国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、

私人相互の関係を直接規律することを予定するものではないが、

私的支配関係においては、

個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害又はそのおそれがあり、

その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、

場合によっては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、

一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し、

基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図るべきであると考えられます(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。

A社における家族手当支給規定は、昭和46年に規定されたが、

その内容は、支給対象として、男子従業員で正式の妻のある者、

女子従業員で正式の夫を扶養している者と定められており、

女子従業員の場合のみ配偶者を扶養していることが支給要件とされていたところ、

A社とA社労働組合は、男女平等を図るため、

昭和49年労働協約から男子従業員の(ママ)正式の妻のある者、

女子従業員で正式の夫のある者として、

女子従業員について配偶者に関する扶養要件をなくし、

配偶者を有する従業員全員が支給対象となった。

その後、支給要件については大きな変更はないまま支給額が改訂されてきたが、

A社からYへの営業譲渡により、A社従業員のほとんどがYに移籍したところ、

同従業員らに適用されてきたA社時代の労働協約に沿う協約がY日本支社でも締結され、

就業規則が定められました。

このような事実関係に、そもそも家族手当は個別的家族状況に応じて支給される性質のものであり、

家族手当の果たしている社会経済的な一般的な役割に照らせば、

家族手当は具体的労働に対する対価という性格を離れ、

家族関係を保護する目的で支給される生活扶助又は生計補助給付としての経済的性格をもつものであるといえます。

そして、具体的労働の対価として支給されるものでない手当について、

どのような支給要件を定めるかについては、

たとえば、Yの住居手当については扶養家族の有無により金額が異なるが、

不動産資産所有の有無、その多寡、居住のための経費の多寡等にかかわらず支給される規定となっており、

画一的基準を定めざるを得ません。

以上のとおり、本件においては、

①前記各労働協約の締結の経緯をみれば、その動機、目的及び手続に不当な点は認められず、

②内容としても当初女子従業員についてのみ配偶者について扶養要件を付していたのを、

男女平等を図るため、扶養要件をはずしたものであること、

③A社又はYにおいては、労組との交渉を重ねて各協約の内容を形成してきたことの各事実が認められ、

④さらに、前記認定のとおり、平成9年12月末日現在における労働省の調査によれば、

本件配偶者手当支給規定と同様に配偶者の所得制限のない支給規定を設けている企業も配偶者手当支給規定を有する企業のうちの半数に上っている事実が認められるのであり、

これらの事実を総合すれば本件配偶者手当支給規定は、

独身者を不当に差別した不合理なものということはできず、

また、男女差別の点も認められないから、

労働基準法3条、憲法14条、13条、22条(ママ)、27条、

均等法及び労働基準法3条に反するとはいえず、

民法90条に反し無効ということはできません。

【労働基準法3条(均等待遇)】


使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

【労働基準法11条(賃金の定義)】


この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。

【まとめ】


本件配偶者手当支給規定により支給される家族手当は、

就業規則中の賃金規定において支給する旨定められており、

具体的金額については、

労働組合との間で締結される労働協約で定められており、

具体的支給条件が明確になっているので、

労働基準法11条の労働の対償としての賃金に当たるものと認められます。