インフォミックス事件と採用内定取消

(東京地決平9.10.31)

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ヘッドハンティングによりマネージャー職にスカウトされた労働者が、

経営悪化を理由として内定を取り消された場合、

その採用内定取消は許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、A社に勤務していたが、Y社の役員、人事部長等と面接し、

マネージャーとして入社するよう強く勧められました。

Xは、Yから採用条件提示書及び入社承諾書の送付を受けました。

右提示書には、所属部署、マネージャーとして採用すること、

月給60万円を基本給とすること、入社希望日等が記載されていました。

XはYに入社することを決意し、入社承諾書をYに送付しました。

これに対しYは、Xに入社承諾書を受領した旨の通知書を送付しました。

Xは、その後A社に対し、退職届を提出しました。

入社予定日の直前に、Xは、Y社の管理部門の責任者Bから、

Y社の業績が予想を大きく下回ったため、経費削減及び事業計画の見直しが進んでおり、

当初Xを配属する予定だった部署が存続しなくなること等を説明し、

入社をすることは差し支えないが、

当初想定していた業務は行なわせることができないこと、

入社を辞退するなら相応の償いをしたいこと等を伝えました。

これに対し、XはYで働きたい旨申し入れたが、

Yは社内の情勢が変わったとして、採用内定を取消す旨の意思表示をしました。

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【判決の概要】


本件採用内定は、就労開始の始期の定めのある解約権留保付労働契約であると解するのが相当です。

始期付解約留保権付労働契約における留保解約権の行使(採用内定取消)は、

解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、

社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当です(最高裁昭和54年7月20日第2小法廷判決・民集33巻5号582頁参照。)。

そして、採用内定者は、現実には就労していないものの、

当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているのであるから、

企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には、

いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する(1)人員削減の必要性、

(2)人員削減の手段として整理解雇することの必要性、

(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ、

解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、

社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきです。

確かに、本件採用内定を始期付解約留保権付労働契約と解する以上、

Xの就労開始前であっても、

Yは、人事権に基づきXの職種を変更する権限を有するものです。

しかし、前記事実経過によれば、YがXに対し、

入社をするのであれば給与はそのままでマネージャーではなくSEとして働いてもらう旨述べたのは、

Yが経営状態の悪化を理由にいわゆるリストラをせざるを得なくなり、

これに伴い、採用条件提示書にも記載されていたXの配属予定部署が廃止され、

マネージャーとして採用することができなくなった状況下で、

(1)基本給の3か月分の補償による入社辞退、

(2)再就職を図るため試用期間(3か月)Yに在籍し、期間満了後に退職、

(3)マネージャーではなくSEとして働くという3つの条件を提示して事態の円満解決を図ろうとしたものと推認されます。

そうだとすれば、YのXに対する右発言は、

事態の円満解決のための条件の1つを単に提示したにすぎず、

YがXの職種を確定的に変更する意思でもって右発言をしたとみることはできません。

したがって、Yの主張は、職務変更命令の存在という前提を欠くから、

職務変更命令違反等を理由とする本件内定取消は無効というほかありません。

確かに、YがマネージャーからSEに職種変更命令を発したことでXの給与が下がるわけではないから、

経済的な不利益は生じないし、また、XとYとの間で職種をマネージャーに限定する旨の合意があったとは認められないから、

Yが職種変更命令を発したことは、

それ自体経営上やむを得ない選択であったということができます。

しかしながら、前記採用内定に至る経緯やXが抱いていた期待、

入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか2週間前であって、

しかもXは既にA会社に対して退職届を提出して、

もはや後戻りできない状況にあったこと、

Xが同月24日、Bに対し、内容証明郵便を出すなどの言動を行ったのは、

本件採用内定の取消を含めた自らの法的地位を守るためのものであると推認することができるから、

Yの職種変更命令に対するXの一連の言動、申し入れを捉えて本件内定取消をすることは、

Xに著しく過酷な結果を強いるものであり、

解約留保権の趣旨、目的に照らしても、客観的に合理的なものとはいえず、

社会通念上相当と是認することはできないというべきです。

Yは、経営悪化による人員削減の必要性が高く、

そのために従業員に対して希望退職等を募る一方、

Xを含む採用内定者に対しては入社の辞退勧告とそれに伴う相応の補償を申し入れ、

Xには入社を前提に職種変更の打診をしたなど、

Xに対して本件採用内定の取消回避のために相当の努力を尽くしていることが認められ、

その意味において、本件内定取消は客観的に合理的な理由があるということができます。

しかしながら、Yがとった本件内定取消前後の対応には誠実性に欠けるところがあり、

Xの本件採用内定に至る経緯や本件内定取消によってXが著しい不利益を被っていることを考慮すれば、

本件内定取消は社会通念に照らし相当と是認することはできないというべきです。

【まとめ】


入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか2週間前であって、

しかも、すでに前会社に対して退職届を提出して、

もはや後戻りできない状況にあったこと等は、

労働者に著しく過酷な結果を強いるものであり、

客観的に合理的なものとはいえず、

社会通念上相当と是認することはできないとして、

本件採用内定取消は無効です。

【関連判例】


「大日本印刷事件と採用内定」
「電電公社近畿電通局事件と採用内定取消」
「日立製作所事件と採用内定取消」
「コーセーアールイー(第2)事件と内々定の取り消し」