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見習社員期間(6ヵ月から1年3ヵ月)終了後に、
試用社員としての試用期間(6ヵ月から1年)があり、
試用社員中にされた解雇は有効なのでしょうか。
【事件の概要】
Yの従業員には、社員、試用社員、見習社員、準社員、嘱託の5種類があり、
社員及び試用社員には就業規則が、見習社員には見習社員就業規則が、
準社員には準社員就業規則、嘱託には嘱託社員就業規則が適用されていました。
見習社員はYとの間で雇用期間を原則として2か月とする有期雇用契約を締結し、
見習社員が試用社員登用試験に合格して試用社員に登用されるか、
又は試験に3回不合格となってYから雇用契約更新拒絶の意思表示を受けるまで、
期間の満了毎に事実上自動的に更新されていました。(見習社員が試用社員に登用されるまでの期間は、入社日及び試用社員登用試験の受験回数によって異なり、最短の者で6か月、最長の者で1年3か月でした。)
Xは、昭和48年4月16日、途中入社のためYに見習社員として採用され、
同年12月実施の第1回目の試用社員登用試験には不合格となったが、
昭和49年3月実施の第2回目の試用社員登用試験に合格して、
同月28日、試用社員に登用されたが、
昭和49年9月、同年12月及び昭和50年3月の各社員登用試験においていずれも不合格となったため、
昭和50年3月29日付けでYから解雇されました。
そこで、Xは、解雇の無効を求めて争いました。
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【判決の概要】
試用契約は、比較的長期の労働契約締結(本採用)の前提として、
使用者が労働者の労働能力や勤務態度等について価値判断をするために行われる一種の労働契約であると解すべきところ、
前認定の中途採用者の雇用の実態及び中途採用者登用制度の内容によれば、
見習社員契約は右の試用契約に該当することが明らかというべきです。
そこで、更に進んで、見習社員としての試用期間中における価値判断の対象と試用社員としての試用期間中における価値判断との間に差異があるか否かの点について検討するに、
少なくとも女子の現業従業員の場合、
見習社員としての試用期間中における価値判断の対象と試用社員としての試用期間中における価値判断の対象との間に実質的な差異はなく、
見習社員は、試用社員と同様に、会社がその職業能力、業務適性、勤務態度等について検討し、
会社の正規従業員としての適格性の有無を判断するために試用される期間中の従業員であると認めるのが相当です。
一般に、試用期間中の留保解約権に基づく解雇については本採用後の通常の解雇の場合よりも広い範囲の自由が認められるものと解されるから、
試用期間中の労働者の地位は本採用後の労働者の地位に比べて不安定であるというべきです。
Yにおいても、社員の場合は、
無届欠勤でない限り長期間病気欠勤をしても他企業のように休職制度はない代わり解雇されることはないことが認められるのに対し、
全認定の中途採用者登用制度の内容によると、
見習社員及び試用社員であると病気欠勤も勤怠基準である欠勤換算日数の中に一定の割合で参入されるためそれが長期に及べば雇止め又は解雇されることになるから、
この一事からしても、見習社員及び試用社員の地位は社員に比べて不安定であることが明らかです。
また、前認定のとおり、選考基準が改訂される場合は、
改定後の基準が選考対象者に事前に周知されていないため、
選考対象者としてはどの程度の勤務・勤怠状況であれば不合格になるかの予測を立てることが不可能であることも見習社員及び試用社員の地位を不安定にさせているというべきです。
右のとおり、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、
労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行うのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、
その限りにおいて無効であると解するのが相当です。
よって、本件についてこれをみるに、
前認定のとおり少なくとも女子の現業従業員の場合は、
見習社員としての試用期間(最短の者で6か月ないし9か月、最長の者で1年ないし1年3か月)中に「会社従業員としての会社における業務に対する適性」を会社が判断することは充分可能であり、
実際にも会社は右期間中に右適性をも判断しているのであるから、
会社が見習社員から試用社員に登用した者について更に6か月ないし1年の試用期間を設け、
筆記試験がないほかは試用社員登用の際の選考基準とほぼ同様の基準によって社員登用のための選考を行わなければならない合理的な必要性はないものというべきです。
従って、少なくとも女子の現業従業員の場合、
見習社員が最終的に社員に登用されるために経なければならない見習社員及び試用社員としての試用期間のうち、
試用社員としての試用期間は、
その全体が右の合理的範囲を越えているものと解するのが相当です。
Yは、Xの見習社員としての試用期間中の勤務状況からみて、
試用社員登用後のXの作業の量及び質が標準的な作業者よりかなり劣るであろうことを充分予想し得たにも拘らず、
敢えてXを試用社員に登用したものであり、
かつ、Xの試用社員登用後の作業の量及び質と見習社員期間中のそれとの間には、
さしたる差はなかったのであるから、
Xの試用社員登用後の作業の量及び質が標準的な作業者よりかなり劣っていたからといって、
それはYにおいて事前に予想していたことか、
予想していなかったとすれば見通しを誤ったものといわざるを得ないから、
Xの作業の量及び質の低劣さから生ずる不利益はYにおいて自ら負担すべきものというべきです。
一方、Xにしてみれば、
雇用期間の定めのある見習社員からその定めのない試用社員に登用されたことにより、
雇用関係継続に対する期待感を増したであろうことは容易に推測し得るところ、
右期待感は合理的理由があるものであって、
それ自体保護に値するものというべきです。
従って、YがXの試用社員登用後の作業の量及び質の低劣さを理由に解雇することは許されないと言わざるを得ません。
Xの試用社員登用後の勤怠状況についてみるに、
前認定のとおり昭和49年3月28日から同50年2月20日までの間における合計46日間の欠勤及び合計4回の遅刻・早退・中途外出は、
その殆どが病気等のやむを得ない事情によるものであり、
無届欠勤は1回もなかったこと及びYでは社員であれば無届欠勤でない限り如何に長期間病気欠勤をしてもそれを理由に解雇することはしていないことを併せ考慮すると、
YがXの右勤怠状況を理由に通常解雇をし得ないことは明らかというべきです。
【まとめ】
試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであるから、
合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、
その限りにおいて無効です。
見習社員期間(6ヵ月から1年3ヵ月)終了後の試用社員としての試用期間(6ヵ月から1年)は、
合理的範囲を越えているとし、本件解雇は無効としました。
【関連判例】
→「神戸弘陵学園事件と試用期間」
→「雅叙園観光事件と試用期間の延長」
→「テーダブルジェー事件と試用期間中の解雇」
→「三井倉庫事件と試用期間中の解雇」
→「ブレーンベース事件と試用期間中の解雇」
→「新光美術事件と本採用拒否」
→「ニュース証券事件と試用期間途中の解雇」
→「医療法人財団健和会事件と試用期間途中の解雇」