社会保険新報社事件と公職就任を理由とする普通解雇

(浦和地判昭55.3.7、東京高判昭58.4.26)

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市議会議員に当選した労働者に対して、

勤務が不可能になったこと等を理由として、

使用者が解雇することは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、社会保険関係図書・医学関係図書等の出版・販売業を営んでいます。

Yは、昭和42年6月1日アルバイトとしてXに就職し、

次いで、昭和46年4月25日常勤社員として採用され、以来図書の編集業務、

次いで総務、営業関係の業務を担当して勤務してきました。

Yは、昭和50年4月25日施行のW市市議会議員選挙に立候補したところこれに当選し、

同日右市議会議員に就任しました。なお、当時Yの年齢は63歳でした。

Xは、Yが右議員に就任した直後の同月30日、

Yに対し、右議員に就任したこと及び年齢も60歳を超えたことを挙げ、

任意退職を勧奨したが、Yから即座に拒絶されたことにより、

Yに対し解雇の意思表示をしました。

なお、Xは、Yがその後出勤するところから、Yとの関係を円満に処理したいと考え、

同年6月2日Yに対し、常勤従業員として留ることは認められないが、

臨時職員或いは嘱託として勤務して貰ってもよい旨の条件を提示して説得したが、

Yは、これに対し、正規従業員としての身分を変更することは承諾できない旨言って拒絶しました。

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【判決の概要】


【一審判決の概要】
使用者が、労働者が地方議会議員等の公職に就任したこと自体を解雇事由とすることは許されないが、

右公職就任により著しく業務に支障を生ずる場合、

或いは業務の支障の程度が著しいものでなくとも、

他の事情と相俟って、社会通念上相当の事由があると認められる場合は、

使用者のなす普通解雇は正当として許されると解するのが相当です。

これを本件についてみるに、前記検討したとおり、

Xの人的態勢からみて、Yの市議会議員就任は、

業務の運営等に支障があるものの、

それが業務運営を著しく阻害する程度のものではないが、

本件解雇時、Yの年齢も63歳の高齢に達し、

Xの60歳を超えた他の多くの従業員の退職年齢とほぼ相当するものであるうえ、

Y自身60歳定年制を規定するXの就業規則の改正作業に関与し、

その就業規則が施行されることによって定年制が実施されることを予期する立場にあったこと、

又本件解雇によってYの収入が減少することは殆どなく、

仮にあったとしても生計の維持を困難にするほどのものでないこと、

その他YのXに採用された経過等の前記認定の事情を併せ綜合すると、

Xのなした本件解雇は、社会通念に照らし、

これを首肯するに足りる相当の理由があるというべきです。

以上により、XのYに対する本件解雇は正当です。

【控訴審判決の概要】
Yは、Xの代表者AがYの市会議員選挙への立候補を承認し、激励し、

会社としても選挙運動に協力、援助しながら、

Yが当選するやこれを理由にYを解雇するのは信義に反し権利の濫用である旨主張しています。

なるほど成立に争いがない乙第8、9号証及び原審におけるX代表者(第1、2回)、並びに原審(第1、2回)及び当審におけるY各本人尋問の結果によれば、

Aは、Yから市会議員選挙への立候補について挨拶を受け、

その際特に立候補に対する異議をさしはさまずに選挙のための休暇を承認し、

激励とみられる言葉で応待し、

当選した場合は退社すべきこと又は解雇されるべきことを示唆することさえしなかったこと、

また選挙運動中B専務取締役らXの有志一同が陣中見舞を贈ったことが認められるけれども、

AないしX有志一同の右言動は挨拶又は報告を受けた者の儀礼以上の意味をもつものではないというべきであり、

Aらの右言動があったからといって、

それゆえに前示の事由(市会議員に当選したことのみを事由とするものではない。)でYを解雇することが信義に反し、

権利の濫用に当ると解することはできません。

また、Y解雇後の組合との交渉経緯に関するY主張の事実についても前記認定事実に照らすときは、

理由がないこと明らかです。

よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却します。

【労働基準法7条(公民権行使の保障)】


使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行すために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

【まとめ】


使用者が、労働者が公職に就任したこと自体を解雇事由とすることは許されないが、

公職就任により著しく業務に支障を生ずる場合、

或いは業務の支障の程度が著しいものでなくとも、

他の事情と相俟って、社会通念上相当の事由があると認められる場合は、

使用者のなす普通解雇は正当として許されます。

【関連判例】


「十和田観光電鉄事件と公民権行使の保障」
「森下製薬事件と公民権行使と休職」