キャノンソフト情報システム事件と労務の提供

(大阪地判平20.1.25)

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病気休職期間中の労働者が、

再三にわたり復職の意思表示をしているにも関わらず、

使用者が復職を拒否し、

休職期間満了をもって退職扱いにしたことは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、コンピューター利用技術の開発・販売等を業とする会社Yで、

プログラマーとして働いていました。

Xは、平成15年から自律神経失調症とクッシング症候群とを理由に病気休職中でしたが、

平成16年8月1日からの復職の意思を表示し、

かつ、平成16年8月1日から現実に復職可能であったにもかかわらず、

Yはこれを拒否しました。

Yは、同年7月9日をもって休職期間が満了することをXに通知し、

休職期間満了の日をもってXを退職扱いにしました。

そこで、Xは、従業員としての地位確認等を求めて争いました。

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【判決の概要】


Yが開発部門での業務に特殊なものとして主張するところは、

主に残業の多さであるが、労働者は当然に残業の義務を負うものではなく、

雇用者は雇用契約に基づく安全配慮義務として、

労働時間についての適切な労務管理が求められるところ、

残業に耐えないことをもって債務の本旨に従った労務の提供がないということはできません。

労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、

現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、

その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、

当該企業における労働者の配置・異動の実状及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、

かつ、その提供を申し出ているならば、

なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当です(最高裁平成10年4月9日第1小法廷判決参照)。

そして、雇用契約上、Xに職種や業務内容の特定はなく、

復職当初は開発部門で従前のように就労することが困難であれば、

しばらくは負担軽減措置をとるなどの配慮をすることもYの事業規模からして不可能ではないと解される上、

Yの主張によればサポート部門は開発部門より残業時間が少なく作業計画を立てやすいとのことであり、

サポート部門にXを配置することも可能であったはずです。

この点、Yは、サポート部門はX自身が向いていないと述べて同部門での業務を嫌っていたと主張するが、

その根拠とするところは平成11年当時の自己申告書であり、

これを7年以上経過した休職期間満了時の資料とする価値は乏しく、

また休職期間満了時までにYが他部門におけるXの就労可能性を具体的に考慮した事情も窺えません。

したがって、休職期間満了時にXから債務の本旨に従った労務の提供はなかったとのYの主張は採用できません。

以上によれば、遅くとも平成17年7月9日の休職期間満了時には、

Xから債務の本旨に従った労務の提供があったということができます。

したがって、平成17年7月9日に休職期間が満了したことをもって退職としたことは就業規則27条1項、

29条5号の適用を誤ったものとして無効であり、

XはなおYの従業員としての地位を有しているというべきです。

また、Xは、Yが復職を認めず、休職期間満了による退職として扱ったため、

平成17年7月10日以降の労務に服することができなかったのであるから、

Xは同日以降の賃金等請求権を喪失しないというべきです(民法536条2項)。

【まとめ】


遅くとも休職期間満了時には、

債務の本旨に従った労務の提供があったということができ、

したがって、休職期間が満了したことをもって退職としたことは、

就業規則の適用を誤ったものとして無効です。

【関連判例】


「片山組事件と労務受領拒否」
「東亜ペイント事件と転勤拒否」
「水道機工事件と外勤・出張拒否闘争」
「カントラ事件と特定された職種の職務に応じた労務の提供」
「東海旅客鉄道事件と休職制度と職場復帰」