光和商事事件と事業場外みなし労働時間制

(大阪地判平14.7.19)

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会社が営業社員の勤務時間を定めて、

営業社員は、その日の行動内容を記載した予定表を会社に提出し、

外勤中に行動を報告しており、

さらに、会社は営業社員全員に携帯電話を持たせている場合、

事業場外みなし労働時間制の適用は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、金融業を営んでおり、Xらは、営業社員として雇用されていました。

Yは、貸金業法改正により貸金利息の上限が引き下げられ、

同業者間の競争が激化したのに伴い、

賃金体系を男性営業社員については歩合給制とし、

基本給と精勤手当は固定額を支給するが、

顧客手当・営業手当等は各営業社員の顧客件数や貸出残高に応じて計算するよう変更し、

また事業存続のため営業社員の基本給が減額される措置がとられ、

賃金が減額されたことから、

Xらは、退職後、右賃金体系の変更等の無効を主張して、

それに基づく賃金差額の支払と、

実際に支払われた退職金と変更前の基本給に基づいて計算した退職金の差額支払を請求しました。

また、時間外労働につき割増賃金の未払いがあったとしてその支払を請求しました。

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【判決の概要】


労働基準法38条の2第1項本文は、事業場外で業務に従事した場合に、

労働時間を算定し難いときは所定労働時間労働したものとみなす旨を規定しているが、

これは、本来使用者は労働時間を把握しこれを算定する義務があるところ、

事業場外で労働する場合にはその労働の特殊性からこのような義務を認めることは困難を強いることから、

みなし規定による労働時間の算定を規定したものです。

したがって、本条の適用を受けるのは、労働時間の算定が困難な場合に限られます。

本件においては、Yでは、Xらについては勤務時間を定めており、

基本的に営業社員は朝Yに出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、

その後外勤勤務に出、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となるが、

営業社員は、その内容はメモ書き程度の簡単なものとはいえ、

その日の行動内容を記載した予定表をYに提出し、

外勤中に行動を報告したときには、Yにおいてその予定表の該当欄に線を引くなどしてこれを抹消しており、

さらに、Yは営業社員全員にYの所有の携帯電話を持たせていたのであるから、

YがXら営業社員の労働時間を算定することが困難であるということはできず、

Xらの労働が労働基準法38条の2第1項の事業外みなし労働時間制の適用を受けないことは明らかです。

Yにおいては、従業員の出退勤時間をタイムカードによって管理していたから、

基本的にはこれに打刻された時刻をもってXらの出退勤時間を考えるべきです。

この点につき、Yは、タイムカードは出勤、遅刻を管理する意味しか有しておらず、

タイムカードに打刻された時刻をもって労働時間を算定することはできないと主張します。

しかし、仮にYにおけるタイムカードが出勤、遅刻を管理する意味しか有していないといっても、

それをもって直ちにタイムカードの記載が従業員の労働時間の実態を全く反映しないということはできません。

少なくとも、Xらのタイムカードは継続して打刻されていること、

Yがタイムカードを管理していたことからすれば、

タイムカードの記載が従業員の労働時間と完全に一致するものとまでいうことはできないが、

タイムカードがXらの労働実態とかけ離れておらず、

時間外労働時間を算定する基礎となる以上、

タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることについて特段の立証がない限り、

タイムカードの記載に従いXらの労働時間を認定するのが妥当です。

そして、本件においては、出勤時にはXらがこれを打刻しているし、

また、終業時には1人の従業員が全員のタイムカードを押しているものの、

ほぼ同時間に従業員が退出していることが認められるから、

タイムカードの信用性を損なうような事情は認められません。

そして、顧客の開発、債権の取り立て等のYの業務内容からすれば、

必ず定時に1日の業務が終了するとは到底言い難く、

時間外労働が発生しうることは十分推認できるし、

その旨Xらも述べているところであり、

B常務も時間外労働が発生することを否定していないことからすれば、

Xらが従事した時間外労働時間はYの黙示の業務命令に基づくものというべきです。

【労働基準法38条の2】


労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

◯2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

◯3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

【まとめ】


会社は、営業社員については勤務時間を定めており、

その日の行動内容を記載した予定表を会社に提出し、

外勤中に行動を報告したときには、

会社においてその予定表の該当欄に線を引くなどしてこれを抹消しており、

さらに、会社は営業社員全員に携帯電話を持たせていたのであるから、

営業社員の労働時間を算定することが困難であるということはできず、

労働基準法38条の2第1項の事業場外みなし労働時間制の適用を受けません。

【関連判例】


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