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新給与規定が、労働者にとって、不利益変更にあたる場合、
新給与規定への変更は認められるのでしょうか。
【事件の概要】
Y社は、化学製品製造・販売とする会社であり、
Xは、Yの従業員として、Yの研究所に勤務していました。
Yは、年功序列制から職能制度を中心とした給与規定の変更(年功部分80%とする旧規定から職能部分80%とする新規定へ変更)及び、
退職金規定の変更(算定ベースを勤続年数とする制度から職能制度をベースとしたポイント加算制度への変更)を実施しましたが、
Xは、Yに対して、給与規定、退職金規定の変更がいずれも不利益変更であり、
かつ、不利益変更について合理性のない無効なものであるとして、
変更前の給与規定、退職金規定が現に効力を有することの確認を求めました。
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【判決の概要】
近時我が国の企業についても、国際的な競争力が要求される時代となっており、
一般的に、労働生産性と直接結びつかない形の年功型賃金体系は合理性を失いつつあり、
労働生産性を重視し、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入することが求められていたといえます。
そして、Yにおいては、営業部門のほか、Xの所属する研究部門においてもインセンティブ(成果還元)の制度を導入したが、
これを支えるためにも、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入する必要があったもので、
これらのことからすると、Yには、賃金制度改定の高度の必要性があったということができます。
なお、この点について、Xは、近時、年功型賃金体系の良さを見直す論調も有力であり、
年功型賃金体系が時代遅れではない旨主張し、この主張に沿う論文等を証拠として提出します。
しかし、それらの論文等を検討しても、
大部分は、能力・成果主義に基づく賃金制度の問題点を指摘するものであって、
必ずしも、旧来の年功型賃金体系そのものを積極的に評価するものは多くはありません。
また、一方で、Yが提出する論文、新聞記事等によれば、
能力・成果主義に基づく賃金制度の導入を強く主張する論調も有力であり、
また、近時この制度を導入する企業も多く認められるところです。
そして、前記認定の事実によれば、本件給与規定改定がもっぱら中高年を狙打ちにしたものともいえません。
前記Xの主張は、Yの賃金制度改定の必要性に関する前記認定を左右するものではありません。
【まとめ】
就業規則を変更し、労働者の既得権を奪い、
また労働者に不利益な労働条件を課すことは、
原則として許されませんが、その必要性及び内容からみて、
労働者が受ける不利益の程度を考慮してもなお合理性を有すると判断される場合には、
労働条件の集合的処理の観点に照らし、
使用者は個々の労働者の合意を経なくとも有効にかかる変更ができます。
ただし、その変更が、賃金や退職金といった労働者にとって重要な権利についてなされる場合には、
かかる不利益を労働者に受忍させることを法的に許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理性がなければなりません。
Yにおいては、Xの所属する研究部門においてもインセンティブ(成果還元)の制度を導入したが、
これを支えるためにも、能力・成果主義に基づく賃金制度を導入する必要があったので、
Yには、賃金制度改定の高度の必要性があったいえます。
【関連判例】
→「日本システム開発研究所事件と年俸制」
→「ノイズ研究所事件と年俸制の導入」
→「中山書店事件と年俸額の確定」