シーエーアイ事件と契約期間途中での賃金額の変更

(東京地判平12.2.8)

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使用者と労働者の間で、期間を1年とする雇用契約により、

年俸額及び月額賃金について確定額で合意している場合、

賃金規則の変更により、

契約期間の途中で賃金月額を一方的に引き下げることは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、情報処理に関する調査研究コンサルタント業等を営んでいる会社です。

Yの賃金規則には、賃金の構成として、

裁量労働により労務を提供するか否かによって、

それぞれ本給、家族手当、住宅手当等の項目が掲げられていたが、

本給や賞与の具体的な額については定められていませんでした。

平成9年4月1日、XはYとの間で、

「平成9年4月1日から1年間、年俸620万円(月額36万5000円及び賞与5か月分)並びに、

家族手当毎月5000円、裁量労働により労務を提供する」との労働条件で契約を締結しました。

その後、Yの財政状況が悪化したことから、

Yは同年8月1日、就業規則及び賃金規則を変更し、就業形態に関する定めを置かずに、

毎月の賃金を年齢給、職能給、業績給(当月の成績により職能給額の0~50%を支給)、

期待給及び諸手当により構成されるものとしました。

同年8月、業績給決定の資料としてXが提出した自己評価表について、

Yは内容が不十分として再提出を求めたが、Xがこれを拒否したことから、

8月分の賃金は年齢給及び職能給のみの合計である16万5000円となりました。

そこで、Xは、一方的に労働条件が引き下げられたと主張し、

変更前の就業規則に基づく賃金との差額の支払等を求めて争いました。

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【判決の概要】


Xは本件雇用契約締結に際し旧就業規則を遵守する旨の誓約書をY社に提出しており、

旧就業規則の規定上も会社の業務に従う者すべてに旧就業規則が適用される旨規定されていることから、

Xは旧就業規則の適用を受ける社員に該当するというべきです。

これに対し、新就業規則は、その適用対象たる社員の定義として、

期間の定めのない労働契約をY社と締結した者をいうとしているのに対し、

XがY社と締結した本件雇用契約は期間1年のものであるが、

Y社には新就業規則以外に期間の定めのある雇用契約を締結した従業員に適用される就業規則は別に存在しないこと、

また、新就業規則は旧就業規則の就業形態及び賃金体系に関する定めを改定する趣旨で規定されたものであるのに過ぎないこと等の各事実に照らせば、

本件雇用契約が期間1年の雇用契約とされているとしても、

Xは新就業規則及び新賃金規則の適用対象である社員に該当すると認めるのが相当であるといえます。

新賃金規則の適用によりY社の従業員のうちで賃金額が減少した者と増額した者とがあるが、

賃金減額を生じうる変更である以上、

新賃金規則への変更は就業規則の不利益変更に該当するものと認められ、

このように就業規則の改定によって労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが、

当該条項が合理的なものである限りこれに同意しない労働者もその適用を拒むことはできないというべきです。

しかし、XとY社は期間を1年とする本件雇用契約により、

旧賃金規定の支給基準等にかかわらず、

支払賃金額は月額36万5000円、年俸額620万円の確定額として合意をしているのであり、

このような年俸額及び賃金月額についての合意が存在している以上、

Y社が就業規則を変更したとして合意された賃金月額を契約期間の途中で一方的に引き下げることは、

改定内容の合理性の有無にかかわらず許されないものといわざるを得ません。

したがって、XはYに対し、平成9年8月分の未払賃金20万円の支払請求権を有するものと認められます。

本件雇用契約は、年俸額を620万円と合意した内容のもので、

「年俸」の文言は1年間に支給される賃金額をいうものと解すべきであるから、

本件雇用契約の合意内容は年俸額の17分の12を月当たりの賃金として支払い、

残りの5か月分については、

賞与2回分合計の最低保障として確定的に支給する旨を合意したものと解するのが相当です。

ただし、本件雇用契約の文言上は6月賞与として2.5か月分の支給をするとの記載はなく右内容の合意がされた事実を認めるに足りる証拠はないものの、

年俸額が確定額で定められ、賞与として5か月分を2回に分けて支給するがその計算方法に特段の合意がない場合に契約期間途中で退職したXの賞与請求権については、

少なくとも契約期間中勤務した日数により按分した額の具体的支払請求権を有すると認めるのが相当というべきです(大阪地方裁判所平成10年7月29日判決・労働判例749号26頁参照)。

【まとめ】


年俸額及び賃金月額についての合意が存在している以上、

就業規則を変更したとして合意された賃金月額を、

契約期間の途中で一方的に引き下げることは、

改定内容の合理性の有無にかかわらず許されません。