江戸川会計事務所事件と賞与請求権の発生

(東京地判平13.6.26)

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給与規定には、賞与名目で臨時賃金を支払う場合があることを規定しているが、

その支給基準についての定めがない場合、

労働者は賞与の支払を請求できるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、会計事務所Yで経理を48年にわたり一手に引き受けていました。

Yの二代目から横領したとの嫌疑を掛けられ、両者で話し合った結果、

Xは平成10年12月末日で依願退職することとなりました。

そこで、Xは、Yに対して、

X自身のの退職金、Yに雇われていて平成9年3月に死亡したXの夫の退職金の相続分、

12月分給与と賞与などを支払うよう求めて争いました。

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【判決の概要】


本件就業規則等は、Yが外部の法人から高年齢者雇用奨励金の給付を受ける目的で作成したものであることが認められるが、

どのような動機から本件就業規則等を作成したものであっても、

Y自らの意思で、Yとその所員との間の労働契約関係に関するものであるとしてこれを作成し、

労働基準監督署に対して提出したものである以上は、

それがYの全所員との関係で全く法律的な意味を有しない形式上だけのものであることが明確にされ、

かつ、実際にこれに基づく労働条件の実施がされていないといった特段の事情が認められない限り、

その内容はYとその所員との間の労働契約の内容として効力を有するものと認められます。

なお、証拠(〈証拠略〉、X本人尋問の結果)によれば、

本件就業規則等の存在についてはX、K及びCといったYの従業員において認識していたことが認められるから、

このことに照らしてもYの他の従業員においても認識し、

あるいは知ろうとおもえば知り得たものであることが推認できます。

そこで、前記特段の事情の有無について検討するに、

本件就業規則等のうち退職金に関する定めの部分は、

もともと就業規則の記載事項としては必ずしも記載されなければならない絶対的必要記載事項ではなく、

制度として行う場合に初めて記載されなければならないという相対的必要掲載事項に過ぎないもので(労働基準法89条3号の2)、

Yが主張するように便宜上提出しておけば足りるとの趣旨で作成した本件就業規則等において、

当然に定める必要がある事項とは認められないところ、

(証拠略)及びX本人の供述によれば、

本件就業規則等が何らの効力を有しない形式だけのもので、

Yと所員との間の労働契約の内容とはならないとの認識が、

Xらと所員との関係において明確であったとまでは認められず、

それが労働契約の内容とはならない無効のものであることをXにおいて認識していたものであるということも認めるに足りないのであって、

他にこの認定を覆すに足りる証拠はありません。

確かに、証拠(〈証拠略〉)によれば、

Yは、本件就業規則等が作成された後に退職した所員に対し、

これに基づく退職金の支給をしておらず、Y

代表者との間で本件就業規則等から算出しうる退職金額とは異なる具体的な合意をして退職金の支給をしていることが認められるが、

こうした取り扱いがされていたことから直ちにYの所員との関係で本件就業規則等の退職金に関する定めが何ら法律的な効力を有しないもので、

そのことをYの所員において認識していたものであるとは認められません。

そうすると、結局、退職金に関する実際の取り扱いが本件就業規則等に定める内容と食い違ったからといって、

そのことから直ちにその退職金に関して定める部分が無効であるということもできません。

以上のとおりであるから、結局、本件就業規則等はXとの関係で法律的な効力を有するものと言わざるを得ないもので、

本件就業規則等においてはYの所員に対する退職金の支給条件が明確に規定されているのであるから、

YはXに対してそれに基づく退職金の支払義務を負担するものと認められます。

Yは、XがY及びAの現金を横領した旨を主張するが、

仮にXがYに対して何らかの事由に基づいて損害賠償義務を負ったとしても、

XがYに対して有する退職金債権は労働基準法24条1項本文の規定により原則としてYにおいて全額払いをすべきものと認められるから、

Yの一方的意思表示によりこれら債務とXに対して有する損害賠償債権とを対当額で相殺することは許されません。

Xが、Yに対し、Xが請求しうるべきKの死亡退職金を放棄することを内容とする合意をする意思表示は、

Y代表者の強迫行為に基づくものと言わざるを得ないものであり、

Xは、本件訴訟における平成12年6月26日付け準備書面に基づいて同意思表示を取り消す旨の意思表示をし、

同意思表示は遅くとも同月27日の第7回弁論準備手続においてYに到達したことは本件訴訟記録上明らかであると認められるから、

結局、Xは、Yに対し、Kの死亡退職金の支払を求める権利を失わないものと言うべきです。

賞与は、それが就業規則や労働契約などにおいて支給することやその場合の支給基準が具体的に定められており、

使用者であるYに支払義務があるものは賃金と認められるが、

その一方で、それを支給するか否か、支給する場合の支給基準が使用者の裁量によるものとされているものは任意的恩恵的給付であって、

賃金としてXの支払請求権を認めることはできないものと解されます。

ところで、Yの給与規定第3条(〈証拠略〉)には、

給与として、「賞与」名目で臨時賃金を支払う場合があることを規定しているが、

その支給基準についての定めはなく、また、証拠(〈証拠略〉)及びX本人尋問の結果)によれば、

XらYの所員は、Yから賞与の名目で毎年7月及び12月の2回にわたって現金を受け取っていたが、

金額はそのときどきによって異なっており、

Yの業績によって金額が決定されていたことが認められます。

そうすると、Yがその所員に対して支給していた賞与は、

Yによる任意的恩恵的給付としてされていたものと言うべきであるから、

結局のところ、Xは、Yから平成10年12月に受け取るべき賞与の支給を受けていなかったとしても、

同月にXに対して支給されるはずの賞与額を適宜に定めて、

その金額を賞与として請求することはできないと言わざるを得ません。

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