秋保温泉タクシー事件と賞与請求権

(仙台地判平15.6.19)

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労使間で、賞与に関する協定が妥結しなかった場合、

労働者は、賞与の支払を請求できないのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、一般旅客乗用自動車運送事業(タクシー事業)等を業とする会社です。

Xらは、タクシー乗務員としてYに雇用され、

また、A労働組合(以下「A労組」という。)の組合員です。

Yは、平成11年4月10日、統一要求に関する協定書を作成したが、

一時金等について、従来のように「現行どおりとする」旨の記載はありませんでした。

しかし、Yは、A労組の組合員に対して、

前年と同じ支給率で、夏期一時金を支給しました。

Yは、平成11年7月2日、A労組に賃金体系の見直しの申し入れを行い、

同年末の一時金については、成果配分としたい旨の提案等を行ったが合意には至らず、

同年12月14日、A労組に年末一時金を支給しない旨通告しました。

そこで、Xらは、Yに対して、平成11年4月の団体交渉において、

年末一時金を支給する旨の合意が成立したと主張して、

年末一時金等の支払を求め争いました。

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【判決の概要】


平成10年から協定書に「現行通り」とする旨の記載がないが、

その理由は、平成10年にB社が集団交渉から離脱したこともあり、

経営側から、全自交関係の労働組合や企業内労働組合との交渉の関係で、

一時金を現行どおりとする文言を外すように要求され、

労働側も、労使間に長年の信頼関係があったため、これに応じたためです。

平成11年4月24日、YとA労組との個別交渉が行われ、

Yから、会社経営が危機的状況にあることが伝えられました。

これを受けて、同月28日、A労組側に自交総連宮城地連のD書記長が参加して交渉が行われ、

E取締役が、会社の経営状況について説明しました。

同年6月19日には、Yが、賃金体系の改革を提示し、

これについて協議することになったが、

その後の協議は進展しませんでした。

前記のとおり、Yは、A労組の組合員に対し、

平成11年の夏期一時金を前年と同じ支給率で支給しました。

Yが、この夏期一時金の支給に当たり、労働協約の成立はないが、

任意に支給する旨の説明をしたことをうかがわせる証拠はありません。

平成11年の集団交渉に参加したF社及びG社は、

いずれも平成11年協定書のとおりに平成11年の夏期一時金及び年末一時金を支給しました。

H社は、平成11年3月31日の団体交渉で基本的に合意していた内容に従い(ただし、書面化は平成11年6月23日(〈証拠略〉))、

夏期一時金及び年末一時金を支給しました。

以上に認定の事実によれば、平成11年協定書の調印により、

YとA労組との間に、同年の夏期一時金及び年末一時金を現行どおり、

すなわち年末一時金については基本給の2.12か月分支給する旨の合意が成立したと認めるべきです。

平成11年4月10日に成立した本件合意は、

直接的には、労働協約としての賃金協定であるが、

他面で、A労組組合員の個々人の雇用条件に直接関係する平成11年夏期一時金及び年末一時金という特定の事項についての合意であり、

かつ、それまで10年以上の間(集団交渉参加後でも9年間)、

支給率が一定で労使慣行化していた事項についての合意であるから、

本件合意をしたE取締役とA労組委員長のZは、

本件合意がYとA労組との間の合意であるだけでなく、

YとA労組を代理人とする各原告(ただし、同日の時点までにYに雇用されていなかった原告X1を除く。)との間の直接の合意(労働契約)であることを認識していたものと認めるべきです。

そして、本訴において労働協約の書面化がないことを主張しているYが平成11年夏期一時金を支給したことも、

上記合意(労働契約)の成立を裏付けるものです。

なお、前記のとおり、平成11年協定書に具体的に合意内容を記載しなかったのは、

他の労組との交渉への影響を懸念した経営側の都合によるものであるから、

本件合意に労働契約としての面があることを認定することは、

この点からも是認されるべきです。

以上によれば、平成11年4月10日、Yと各原告(原告X1を除く。)との間に、

同年の一時金(年末一時金を含む。)を現行どおり支給する旨の合意(労働契約)が成立したと認めるべきです。

【まとめ】


それまで10年以上の間、夏期一時金及び年末一時金は、

一定の支給率で支給することが労使慣行化しており、

平成11年4月10日に成立した本件合意は、

使用者と個々の組合員との間で、

一時金(年末一時金を含む。)を現行どおり支給する旨の合意の成立が認められます。

【関連判例】


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