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現実に賞与が支給される日が、
内規において支給日と定めた特定の日より後にずれ込んだ場合、
支給日と定めた特定の日に在籍していた労働者は、
賞与の支払を請求できるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、空気調和、給排水衛生設備の設計施工などを業とする株式会社です。
XらはYの従業員であり、平成10年6月30日から同年8月31日までの間にYを退職しました。
また、XらはいずれもA労働組合の組合員でした。
平成7年に改正されたY会社の賃金規則22条には、
賞与は「支給時点の在籍者に対し支給する」との定めがあるが、
当該賃金規則は周知されていませんでした。
一方、前年度下期賞与は従業員賞与支給内規により、
原則として毎年6月10日に支給されるものとされていました。
当該内規も周知されていなかったが、例年、下期賞与は同日に支給されてきました。
YとA組合は、平成9年度下期賞与の金額について、
平成10年9月21日に妥結し、その支給日を平成10年9月30日とすることに合意しました。
Yは、同日従業員に対し賞与を支払ったが、
Xらに対しては本件賞与の支給日に在籍しておらず、
賃金規則22条に、支給日在籍要件があるという理由で、本件賞与を支払いませんでした。
そこで、Xらは、当該賃金規則は周知されておらず、
賃金規則に定める支給日在籍要件は無効であるとして、
賞与等の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
Yは平成7年6月1日から実施された本件就業規則及び本件賃金規則の改定に当たって労働基準法90条に基づいて労働者の過半数で組織する労働組合としてA組合に対し意見を聴き、
A組合の委員長の意見書を添付して所管行政庁に届け出ているのであるから、
仮にYにおいて労働基準法106条1項所定のじ後の周知方法を欠いていたとしても、
それを理由に本件就業規則及び本件賃金規則自体の効力を否定する理由にはならないものと解するのが相当です(最高裁昭和27年10月22日大法廷判決・民集6巻9号857ページ)。
そうすると、Yにおいては、
本件就業規則及び本件賃金規則の改定後にYに入社した従業員に対し本件賃金規則を配布せず、
本件就業規則及び本件賃金規則を改定する前からYに在籍していた従業員に対しては本件就業規則も本件賃金規則も配布せず、
Yの事務部長が本件就業規則及び本件賃金規則を保管していたというのであるが、
仮にこれでは本件就業規則及び本件賃金規則について労働基準法106条1項所定のじ後の周知方法を欠いているとしても、
それを理由に本件就業規則及び本件賃金規則が無効であるということはできません。
現実に賞与が支給される日が団体交渉の妥結の遅れやYの資金繰りなどの諸般の事情により本件内規において支給日と定めた特定の日より後にずれ込むことも考えられない事態ではないが、
そのような場合に現実に賞与が支給される日がいつになるかについては賞与の支給日が後にずれ込む原因となった諸般の事情に左右され、
現実に賞与が支給される日をあらかじめ特定しておくことは事実上不可能であって、
そのような場合についても、
賞与の支給対象者を本件内規において賞与の支給日と定めた特定の日にYに在籍する従業員ではなく、
現実に賞与が支給された日にYに在籍する従業員とすることは、
本件賃金規則22条ないし24条により賞与請求権を取得した者の地位を著しく不安定にするもので、
合理性があるとは言い難いです。
以上によれば、下期賞与、上期賞与が支給される者とは下期賞与の支給が予定されている毎年6月10日、
上期賞与の支給が予定されている毎年12月10日に、
それぞれYに在籍している従業員であり、
したがって、従業員が下期賞与の支給が予定されている毎年6月10日、
上期賞与の支給が予定されている毎年12月10日に、
それぞれYに在籍していれば、たとえ現実に下期賞与、
上期賞与が支給されるのが下期賞与の支給が予定されている毎年6月10日、
上期賞与の支給が予定されている毎年12月10日より後になったとしても、
その従業員は下期賞与、上期賞与の支給を受けることができると解されます。
【まとめ】
内規で定められた予定支給日から実際の支給日がずれ込んだ場合、
予定日に在籍していた労働者には賞与請求権が認められることがあります。
【関連判例】
→「大和銀行事件と賞与(支給日在籍要件)」
→「江戸川会計事務所事件と賞与請求権の発生」
→「秋保温泉タクシー事件と賞与請求権」
→「ベネッセコーポレーション事件と退職予定者の賞与減額」
→「コープこうべ事件と賞与支給対象期間途中の退職」
→「山本香料事件と年俸期間途中での解雇」
→「大阪府板金工業組合事件と賞与請求権」