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賞与支給後間もなく退職した労働者に対して、
使用者は賞与規定に基づいて、
支給額の減額をすることはできるのでしょうか。
【事件の概要】
当時X社では、賞与の支給基準として、
中途採用者の冬期賞与は、基礎額の4か月分としていたが、
12月31日までに退職を予定している者については、
4万円に在職月数を乗じた額とすると定められていました。
Xに中途入社したYに対して、基礎額の4ヶ月分の冬期賞与が支払われたが、
Yは、年内に退職しました。
そこで、Xは、Yに対して、年内に退職したことを理由に、
4万円に在職月数を乗じた額との差額の返還を求めて争いました。
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【判決の概要】
本件支給基準書に従うと、平成4年4月1日以降同年9月1日までに入社した中途入社者であるYの場合、
退職予定がなければ162万2800円が支給されるが、
年内退職予定があれば在月数7か月として28万円しか支払われないこととなり、
支給額に134万円余の差を生じ、退職予定がある場合には、
それがない場合の賞与額の17パーセント余の金額しか受給できないこととなります。
前記のとおり、将来に対する期待の程度の差に応じて、
退職予定者と非退職予定者の賞与額に差を設けること自体は、
不合理ではなく、これが禁止されていると解するべき理由はありません。
しかしながら、本来の趣旨が賃金と認められるXの賞与において、
過去の賃金とは関係のない純粋の将来に対する期待部分が、
Yと同一時期に中途入社し同一の基礎額を受給していて年内に退職する予定のない者がいた場合に、
その者に対する支給額のうちの82パーセント余の部分を占めるものとするのは、
いかに在社期間が短い立場の者についてのこととはいえ、肯認できません。
本件支給基準書の内容は、6項においては基礎額に応じ、
本件条項においては在籍期間に応じ、
それぞれ額が変動するのでその相互の割合には変動があるが、
Yと同様の条件にあった非退職予定者の場合については、
右82パーセントの部分のうちにも、本来賃金の要素からなる部分が含まれていると解さざるをえません。
そうすると、年内退職予定者に対して、その分を支給しないとすることは、
実質的に、従業員の賃金を不当に奪うことになり、
従業員に対する賃金の支払いを保障する労働基準法(24条)に反する結果を招致することになります。
本件条項は、その限度において、労働基準法の趣旨に反しており、
民法90条違反であると解されます。
また、給与規程との関係においても、給与規程が、
前記のとおりXにおける賞与を基本的に賃金の一種ととらえていることからすれば、
実質的に賃金である部分については、
退職予定者に対しても支給することを予定しているといわなければならないから、
それを下回る支給額しか算出されない本件条項は、
その限度において、給与規程の委任の枠を超え、
Xにおける賞与制度の趣旨を阻害するものであり、無効です。
Xが一定の範囲内で、従業員に対する将来の期待部分を賞与の趣旨に含めて賞与額に反映させることが禁じられるものではないことは既に述べたとおりです。
そして、その範囲・割合については、
本件支給基準書に記載された従業員の各類型毎の支給基準を対比し、
在社期間の短い中途入社者は将来に対する期待部分の割合が比較的多い類型の従業員であると思われること等の諸事情を勘案し、
弁論の全趣旨に照らして判断すると、当時のYについては、
これと同一の条件の非年内退職者の賞与額の2割とするのが相当です(Yは、懲戒による減給の制裁の場合との比較を論ずるが、賞与額の決定は、懲戒とは直接関係がないものと考える。)。
さらに、本件支給基準書が年内退職予定者の賞与額を本件条項のみにより決定する趣旨であると解されるのは前述のとおりであるが、
本件条項が、非年内退職予定者の賞与額との差を設けることの許された範囲を超えて年内退職予定者に対する支給額を低額にしている部分については効力がないので、
年内退職者は、本件条項の定める範囲を越え、
非年内退職者の賞与額の8割に達するまでの分については、
補充的に本件条項の一般的規定である6項に基づき、
賞与を受給する権利を有すると解するのが相当です。
【関連判例】】
→「大和銀行事件と賞与(支給日在籍要件)」
→「江戸川会計事務所事件と賞与請求権の発生」
→「秋保温泉タクシー事件と賞与請求権」
→「須賀工業事件と支給日在籍要件」
→「コープこうべ事件と賞与支給対象期間途中の退職」
→「山本香料事件と年俸期間途中での解雇」
→「大阪府板金工業組合事件と賞与請求権」