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早期退職優遇制度の適用対象者が、
支給対象期間途中に退職日が設定されていたため、
継続勤務要件を満たさず、賞与を受給できなかった場合、
賞与の支払を請求できるのでしょうか。
【事件の概要】
Yは、消費生活協同組合法に基づき設立された生活協同組合です。
Xらは、Yの希望退職優遇制度の適用を申請して退職しました。
Yは、A労働組合との間で、経営合理化策の一環として、
望退職優遇制度(以下「本件制度」という。)に関する協定(以下「本件協定」という。)を締結しました。
本件協定は、本件制度の優遇内容のうち、退職金の支給については、
「1、年齢は満60歳とみなす」、「2、勤続は満60歳とみなす」、「3、退職事由は定年扱いとする(乗率2.0)」と定め、
退職日については、「1、原則として2000年4月15日とする。ただし、前倒しの退職希望については考慮する。」と定めています。
Yは、Xらに対し、本件制度における夏季賞与の支給の有無については、
口頭でも書面でも説明しませんでした。
Yは、Xらに対し、Xらが賞与支給対象期間満了前に退職したため、
夏季賞与を支給しませんでした。
そこで、Xらは、Yに対して、
賞与支給対象期間を継続勤務することを賞与の支給要件とするYの正職員給与規程の定めが公序良俗に違反して無効であると主張して、
夏季賞与等の支払を求めて争いました。
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【判決の概要】
Yの職員がYに対して夏季賞与を請求するためには、
夏季賞与の支給対象期間を継続勤務し、
かつ、同期間中の勤務状態等に対する人事考課により賞与支給ランク別係数が定められて賞与の算定基礎給の額が確定することを要するものと解されます。
これを本件についてみると、前記争いのない事実等(1)アによれば、
Xらは、いずれも夏季賞与の支給対象期間満了前である平成12年3月15日又は、
同年4月15日、Yを退職したというのであり、
継続勤務要件を満たさないから、
Xらの労働契約に基づく夏季賞与の請求は、いずれも理由がありません。
この点、Xらは、本件制度は労働者において退職の時期を選ぶことができないものであり、
この意味では、継続勤務要件は、本件制度によって退職する者が有する賞与に対する期待権を一方的に剥奪することになるから、
Xらに対しては、その合理性を欠き、公序良俗に違反して無効であると主張するので、検討します。
賞与は、労働の対償としての性格を有するものであるが、
他方、前記認定のとおり、賞与は生協事業の状況及び職員の勤務状態を考慮して支給するものとされ、
賞与の算定基礎給の額を定めるためには賞与支給対象期間中の職員の勤務状態等に対する人事考課が不可欠であることからすると、
賞与は、収益分配や功労報奨としての性格をも併せ持つものであり、
個々の労働に応じて支給される通常の賃金とは異なり、
賞与支給対象期間中の職員の勤務状態等を全体として評価したうえで支給されるものであるということができます。
このような賞与の性格に合致する継続勤務要件は一定の合理性を有するものというべきであり、
賞与支給の基準を明確に定める必要性があることをも考慮すると、
継続勤務要件を満たさないXらとの関係で継続勤務要件が公序良俗に違反して無効であるとはいえません。
もっとも、定年退職した者等退職日を任意に選択することができない職員に対し、
継続勤務要件を満たさないことを理由に労働の対償としての性格を有する賞与を支給しないのは公序良俗に違反するとの議論もあり得るところであるが、
Xらは、自らの意思に基づいて本件制度の適用を申請し、
Yを退職したものであり、
本件制度の適用を申請せずに継続勤務要件を満たして夏季賞与の支給を受けることもできたのであるから、
退職日を任意に選択することができなかったとはいえません。
また、前記争いのない事実等(3)によれば、
本件制度においては、原則として、
退職日が夏季賞与の支給対象期間満了前である平成12年4月15日と定められていたというのであり、
本件制度の適用を申請する職員は、継続勤務要件を満たして退職することはできなかったのであるが、
これは、YとYの職員を代表すると推認されるA労働組合との間で締結された本件協定により定められたものであるから、
Yが本件制度による退職日を夏季賞与の支給対象期間満了前に定めることにより、
Xらの賞与に対する期待権を一方的に剥奪したとみることはできません。
Yが夏季賞与の支給を含むすべての点についてXらを定年退職の場合と同様に扱う意思であったと認めることはできないから、
Yが賞与支給対象期間中に定年退職した者に対しても、
同期間の2分の1以上継続勤務していれば、
賞与を日割計算で支払うという取扱いが労使慣行として成立しているか否かについて判断するまでもなく、
上記合意が成立していたと認めることはできず、
他にこれを認めるに足りる証拠はありません。
【まとめ】
継続勤務要件は一定の合理性を有し、
賞与支給の基準を明確に定める必要性があることをも考慮すると、
継続勤務要件が公序良俗に違反して無効であるとはいえません。
Xらは、本件制度の適用を申請せずに、
継続勤務要件を満たして夏季賞与の支給を受けることもできたのであるから、
退職日を任意に選択することができなかったとはいえません。
【関連判例】
→「大和銀行事件と賞与(支給日在籍要件)」
→「江戸川会計事務所事件と賞与請求権の発生」
→「秋保温泉タクシー事件と賞与請求権」
→「須賀工業事件と支給日在籍要件」
→「ベネッセコーポレーション事件と退職予定者の賞与減額」
→「山本香料事件と年俸期間途中での解雇」
→「大阪府板金工業組合事件と賞与請求権」