朝日新聞社(会社年金)事件と退職年金支給の停止

(大阪地判平12.1.28)

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定年退職後、引き続き嘱託として勤務していた労働者が、

懲戒解雇された場合、それと同時に、

退職年金の受給資格を取り消すことは認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Xは、新聞社Yを定年退職後、引き続き嘱託として勤務していました。

しかし、覚醒剤取締法違反で逮捕されたことを理由に懲戒解雇され、

懲戒解雇と同時に、新就業規則で定める、

定年後5年間年金を支給する旨の規定に基づいて支給されていた年金(月額6万円)の受給資格が取り消されました。

改定前の制度においては、

「受給者に不都合な行為があった場合は、その支給を停止することがある」旨が規定されていたが、

新規則には支給停止条項が規定が存在しなかったことから、

Xは、受給資格の取消しに根拠はないとして、年金の支給を求めて争いました。

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【判決の概要】


新年金は、退職金制度とは別個の制度として導入されており、

沿革は古く、労働者の無拠出によるものであり、

恩恵的な制度として設けられた側面は否定できないが、

勤続年数によって支給期間、金額が増減することは、

これが年功報償としての性格を有するものということができます。

そして、この制度は就業規則に明文化され、

労働契約の内容となっているもので、新年金受給権はこれに基づいて発生する権利であるから、

これが恩恵的な側面を有するからといって、

支給者において、根拠なくその受給資格を剥奪できるものではありません。

すなわち、受給資格を剥奪できるのは、

支給停止条項が労働契約の内容となっている場合に限られるというべきです。

ただ、労働契約の内容については、就業規則の合理的な解釈、

労使の慣行など総合的に検討して判断されるべきものであるから、

形式的な文言だけから結論が出るものではありません。

新年金制度は金額、支給期間等に変更はあるものの、

制度そのものの性格は、新年金となることによって定年給から変更になったとはいえません。

そうであれば、定年給における支給停止条項を新年金において排除しなければならない理由はないし、

Yは、新年金制度においても、受給者に不都合な行為があった場合は支給を停止できるとの考えで、

本件以外にも、同様の取扱いをしたことがあり(〈証拠略〉)、

労働者にとっても、定年給と新年金とで異なる扱いを受けることの期待があったともいえません。

新年金は、退職に伴い発生する権利であり、

この点では退職金に類似するが、退職金については、

懲戒解雇事由があるときはこれを支給しないものとされており、

新年金について、懲戒解雇事由があるときでもその支給を停止されないとの期待を持つ合理性はありません。

してみれば、新年金制度の導入によって、

定年退職者の定年給について、

一定の場合に支給が停止されるとの労働契約の内容が変更になったとはいえないのであって、

定年給と性格が同じである新年金についても、

一定の場合に支給が停止されることは労働契約の内容になっているものというべきです。

以上によれば、Yは、年金受給者にその雇用期間中の功績を無にするほどの不祥事があった場合には、

年金の支給を停止できるというべきです。

Xが覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕されたこと、

これが被告の社会的信用、名誉を傷つけたことは当事者間に争いがありません。

XがYの新聞記者として立場にあったこと、Yが新聞社という立場から、

覚せい剤の害悪を報道し、これに関する犯罪を糾弾してきたことを考慮すれば、

Xの行為によって生じたYの社会的信用の低下は著しいものがあるといえ、

これはXの雇用期間中の功績を抹消するに足りる不祥事であって、

年金受給資格の停止事由となるというべきであり、

その受給資格取り消しの意思表示についてこれを無効とする理由はありません。

【関連判例】


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