日本高圧瓦斯工業事件と不信行為と退職金の支給

(大阪地判昭59.7.25、大阪高判昭59.11.29)

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懲戒解雇等円満退職でない場合には、

退職金を支給しない旨の規定があっても、

円満退職でない労働者が退職金の支払を請求できるのは、

どのような場合なのでしょうか。

【事件の概要】


X1は、昭和46年10月1日、X2は、昭和44年10月18日、Yに雇用され、

X1は、昭和58年8月15日、X2は、同年7月末までに、

Yに対して書面をもって雇用契約の解約を申入れました。

同年9月15日までに、事務引継ぎを行ない、同日自己都合により退職しました。

Yには退職金規定が存在したが、

Yは、Xらの退職申入れに対し、未だこれを承認していないから、Xらの退職の効力は発生せず、従って、Xらには退職金請求権が発生していない、

仮に、XらがYを退職したとしても、

就業規則には「会社は、従業員が円満なる手続により退職するとき・・・退職金を支給する。」、

「従業員が退職を希望するときは1か月前、役付者は2か月前に退職願を提出し、会社の承認を受けなければならない。」、

「退職したときは直ちに業務の引継をなす。」と規定されているところ、

X1はA営業所長として、X2は同営業所主任として役付者であったから、

2か月前に退職願を提出する必要があるのに、これをせず、退職の承認を受けず、

退職にあたり事務引継ぎを全くしていないから、

Xらの退職は円満なる手続による退職ではないから退職金請求権が発生しない、

仮に、退職金債権が認められるとしても、YはXらによる不法行為によって損害を被ったから損害賠償債権と退職金債権を相殺する等として、

退職金の請求の支払を拒みました。

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【判決の概要】


【第1審判決の概要】
Yは、Xらの退職申出は、就業規則所定の承認がないから、その効力を生じない旨主張します。

成立に争いのない乙1号証、弁論の全趣旨によれば、

Yの就業規則12条は、「退職を願出て、会社が承認したとき、従業員の身分を喪失する」旨規定していること、

YがXらの退職申出を承認しなかったことが認められます。

ところで、右規定の趣旨及び適用範囲については、

従業員が合意解約の申出をした場合は当然のことであるし、

解約の申入れをした場合でも民法627条2項所定の期間内に退職することを承認するについても問題ないが、

それ以上に右解約予告期間経過後においてもなお解約の申入れの効力発生を使用者の承認にかからしめる特約とするならば、

もしこれを許容するときは、使用者の承認あるまで労働者は退職しえないことになり、

労働者の解約の自由を制約することになるから、

かかる趣旨の特約としては無効と解するのが相当です。

従って、本件の場合、右就業規則所定の承認がないからといってXらのなした解約の申入れの効果が生じないとはいえず、

Yの右主張は採用できません。

前掲乙1号証によれば、退職金を支給する場合につき、

Yの就業規則がその15条において、

「会社は、従業員が円満なる手続により退職するか、または死亡したときは退職金を支給する。退職金支給規定による。」と規定し、

そして、退職の手続については、同規則13条において、

「従業員が退職を希望するときは、1ヶ月前に退職願を所属上長を経て提出し、会社の承認を受けなければならない。但し役付者は2ヶ月前とする。」と規定し、

同規則14条において、「従業員が・・・退職したときは、直ちに業務の引継をなし・・・。」と規定していることが認められます。

しかしながら、(1)前掲乙1号証、成立に争いのない乙3号証によれば、

Yの就業規則の附属規定であるところの本件退職金規定を含む給与規定は、

退職金不支給の場合につき、その31条において、

「従業員が懲戒解雇等不都合な行為によって退職するときは、退職金を支払わないことがある。」と規定し、

本件退職金規定は、その規定上退職金不支給の場合を懲戒解雇あるいはそれに準じるものに限定していることが認められること、

(2)退職金について使用者が就業規則中に規定を設けて、

予めその支給条件を明確にし、その支払が使用者の義務とされている場合には、

退職金は労基法所定の賃金に当たると解するのが相当であるところ、

右(1)の認定事実に加えて、前掲乙3号証により認められる本件退職金規定の規定の内容及び弁論の全趣旨を総合すると、

本件退職金は労基法所定の賃金に該当するものというべきこと、

(3)そして、退職金が労基法所定の賃金に該当する場合には、

懲戒解雇等円満でない場合には退職金を支給しない旨の規定があっても、

これが労働者に永年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合についての規定ならば、

その限度で有効と解するのが相当であり、

労働者に右のような不信行為がなければ退職金を支給しないことは許されないものというべきであり、

そうすると、前記本件退職金規定31条及び本件就業規則15条の規定は、

労働者に永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為があった場合には退職金を支給しない旨の趣旨の限度で有効であり、

これを超える趣旨の特約としては無効と解するのが相当です。

(4)しかるところ、Xらの退職が前記就業規則15条所定の「円満な手続による退職」に該当しないとしてYが主張する事由は、

いずれも従業員の退職についての手続規定違反を論難するものに過ぎず、

仮に、右Y主張事由が存するとしても、その主張事由自体からして、

これが労働者であるXらの永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものといえないことは明らかです。

Yは、YがXらの不法行為により被った損害の損害賠償債権をもって、

Xらの退職金債権と相殺する旨主張します。

ところで、労基法24条1項は、

「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定するところ、

この規定は、労務の提供をした労働者本人の手に労働の対価である賃金を残りなく確実に帰属させんとする趣旨の規定であるから、

労働者の賃金債権に対しては、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することは許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であり、

このことは、その債権が不法行為を原因としたものであっても変わりはないというべきです。

しかるところ、Xらの本訴退職金は労基法所定の賃金に該当すると解されること前記のとおりであるから、

Yにおいて、Xらに対する損害賠償債権をもってXらの退職金債権と相殺することは許されないものといわねばなりません。

【控訴審判決の概要】
当裁判所も、Xらの本訴各請求を正当として認容すべきであると判断します。

その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用します。

Yは、XらがYのA営業所の責任者であって同営業所の運営の衝に当たっていたところ、

突如として退職届を提出し、その後は右営業所の運営を放置して残務整理せず、

その後任者に対しても何らの引継をしないまま退職するなどの行為をしたものであるから、

右は退職金の不支給を是認させる永年勤続の功労を抹消するに足る不信行為に該当し、

YにはXらに対し退職金を支給すべき義務がない旨主張します。

仮に、Xらにおいて退職に際しY主張に係る右のように行為があったとしても、

その行為は、責められるべきものであるけれども、

末だもって労働者であるXらの永年勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為に該当するものと解することができないから、

Yの右主張は採用することができません。

【まとめ】


懲戒解雇等円満退職でない場合には退職金を支給しない旨の規定があっても、

労働者に永年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為がなければ、

退職金を支給しないことは許されません。

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