橋元運輸事件と退職金の一部支払

(名古屋地判昭47.4.28)

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競争会社の取締役に就任していることを理由に懲戒解雇された労働者に対して、

退職金を不支給とする措置は認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、運送を業とする株式会社です。

Xらは、Yの従業員でであるが、昭和43年10月12日、

Yは、Xらが、同年7月ごろから、Zが同一業種のA会社を設立するにあたって、

同社の取締役に就任し、Yの親会社に対しA社に対する発注作業の申請をし、

Yの業績を低下させるような計画に参画しており、

Xらのこのような行為は、就業規則第48条4号の「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇入れられ他に就職した者」及び、

同条7号の「その他各号に準ずる程度の不都合行為のあったもの」に該当するとして、

Xらに対し、懲戒解雇の意思表示をしました。

また、退職金規定に基づいて、退職金を支払いませんでした。

そこで、Xらは、Yに対して、解雇の無効と退職金の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


元来就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、

従業員が二重就職することによって、会社の企業秩序をみだし、

又はみだすおそれが大であり、

あるいは従業員の会社に対する労務提供が不能若しくは困難になることを防止するにあると解され、

従って右規則にいう二重就職とは、右に述べたような実質を有するものを言い、

会社の企業秩序に影響せず、

会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは含まれないと解するのが相当です。

しかし、ZはYの取締役副社長に在任中に同一業種の別会社を設立することを企て、

これを実行したのであり、Xらは訴外Aの右企てを同人から告げられ、

その依頼を受けてAの取締役に就任することにより右企てに参加したものであること、

Zが別会社設立を理由に解任された後も、これを知りながら、

いぜんとして取締役の地位にとどまり辞任手続等は一切しなかったこと、

ZはYから解任された後はAの経営に専念していたのであり、

ZとXらとの前記のような間柄からすれば、

Xらは、ZからAの経営につき意見を求められるなどして、

Aの経営に直接関与する事態が発生する可能性が大であると考えられること、

XらはYの単なる平従業員ではなく、

いわゆる管理職ないしこれに準ずる地位にあったのであるから、

Yの経営上の秘密がXらによりZにもれる可能性もあることなどの諸点を考え併せると、

XらがYの許諾なしに、Aの取締役に就任することは、

たとえ本件解雇当時XらがAの経営に直接関与していなかったとしても、

なおYの企業秩序をみだし、又はみだすおそれが大であるというべきです。

してみると、XらのA取締役就任の所為はY就業規則第48条4号または7号に該当するというべきであるから、

これを理由としてなされた本件解雇は有効です。

もともと懲戒解雇は、経営秩序違反を理由としてそれに対する制裁の意味で通常解雇についてみとめられる利益である退職金の支給をその一部又は全部について停止しようとするものであり、

現に(証拠略)によれば、Yの退職金規定7項は「次の各号に該当し退職する者は、支給額を減額もしくは支給しない」と規定し、

その4号に「懲戒により解任されたもの」と規定していることが認められます。

このような懲戒解雇における退職金支給についての制限規定は、

退職金が功労報償的性格を有していることに由来すると考えられます。

しかし退職金は、賃金の後払的性格をも帯有していることは否定できないから、

たとえ右制限規定の具体的適用が、

就業規則上使用者の裁量に委ねられているとしても使用者の被懲役解雇者に対しなす右具体的適用は労基法の諸規定やその精神に反せず、

社会通念の許容する合理的な範囲においてなされるべきものと考えます。

この見地からすると、退職金の全額を失わせるに足りる懲戒解雇の事由とは、

労働者に永年の勤続の功を抹消してしまうほどの不信があったことを要し、

労基法20条但書の即時解雇の事由より更に厳格に解すべきです。

そこで右原告両名の本件解雇に至るまでのすべての経緯を勘按すると、

Xらのなした所為はXらが16年余に亘りYに勤続した功を一切抹殺するに足る程の不信行為とは言えないから、

所定退職金額の6割をこえて没収することは許されないと解するのが相当です。

【関連判例】


「小田急電鉄事件と懲戒解雇に伴う退職金不支給」
「ヤマト運輸事件と退職金の一部支払」
「幸福銀行事件と退職年金の打切り」