松下電器産業グループ(年金減額)事件と年金給付率引下げの相当性

(大阪高判平18.11.28)

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会社の運用する福祉年金制度において、

業績低迷の対応策として給付利率を下げて支給することは、

認められるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、電気、通信、電子及び照明機械器具の製造、販売等を業とする株式会社です。

Xらは、いずれもY又はそのグループ会社に永年勤務し、既に退職した者です。

Xらは、Yとの間で、Yの福祉年金制度(以下「本件制度」という。)に基づく福祉年金契約(以下「本件契約」という。)を締結していました。

Yは、Yの制定した福祉年金規程(以下単に「本件規程」という。)に基づいて本件制度を運営しており、

本件規程の23条1項は「将来、経済情勢もしくは社会保障制度に大巾(以下「大幅」と表記する。)な変動があった場合、あるいは法制面での規制措置により必要が生じた場合は、この規程の全般的な改定または廃止を行う。」と規定しています(以下「本件改廃規定」という。)。

Yは、Xらを含む既受給者について、平成14年9月21日の支給分(同年3月21日から9月20日までの半期分)から、

従来の本件給付利率を一律2%引き下げる旨決定し(以下「本件利率改定」という。)、

同月12日、その旨記載された社長書簡を発送し、

同月17日、新年金証書,計算書等を発送して、Xらを含む既受給者に通知しました。

そこで、Xらは、Yの行った年金支給額の減額は、

各年金契約に違反し違法無効であり、Yは減額前の年金額を支払う義務がある旨主張して、

Yに対し、減額前の年金額と既払額の差額の支払いを求めて争いました。

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【判決の概要】


本件改廃規定が規定する経済情勢、

社会保障制度に大幅な変動が存することが認められます。

もっとも、上記のとおり、Yは、

本件改廃規定が規定する要件が認められれば、

自由に本件規程を改定できる訳ではなく、本件利率改定内容の必要性、

相当性を必要とすることは、事柄の性質上明らかです。

また、本件利率改定に当たり、

本件制度は退職労働者の福祉政策の一環として労働組合との協議のうえ発足したものであるから労働組合に対し理解を求めることが必要であるし、

また、本件年金受給者は退職して労働組合員ではないから、

不利益を受ける本件年金受給者に対しても、

本件利率改定に対し理解を求める努力をする等手続の相当性が必要です。

以下、この利率改定内容の必要性、相当性、本件利率改定手続の相当性につき順次検討することとします。

Yは、業績低迷の対応策として、

Y従業員に「キャッシュバランスプラン」を導入し、当面年3.5%の給付利率での支給が開始されており、

本件基本年金の既受給者の受給額と現役従業員が退職後に受給しうる年金額との間に大きい格差が生じていること、

従業員や取引先にコストダウン施策の協力を要請し、

株主に対する配当減少も余儀なくされている一方、本件制度にかかる負担額が増大し、

いわば、これら現在の従業員、Yの取引先や株主の犠牲のもと、

本件給付利率が高率を維持しているといっても過言でないこと、

また、利率引下げ、解散をする厚生年金基金が急増していること、

さらに、金融市場における利率、

特に、平成14年当時の長期プライムレートと比較すると本件制度の給付利率と大きくかけ離れていること、

そもそも、本件制度は、未だ公的な社会保障制度の整備が不十分であった時代に、

従業員の退職後の生活の安定を図り、退職金の運用先を提供する趣旨も含め、

市場金利よりも若干有利な給付利率による年金を長期間に渡って継続的に支給し続けるということを目的とするものであり、

現に、昭和41年に本件制度が発足した際の給付利率10%は、

当時の長期プライムレート年8.4%よりも若干高めの利率であったこと等を総合すれば、

本件制度による給付利率を一律2%程度引下げる必要性があったこと、

そして、引き下げ後の利率は、本件制度への加入時期に応じて、

年5.5%ないし8%であり、一般金融市場における利率に比べ、

なお相当程度高い利率であること等も考えれば、

Xらの利益を著しく損なうものではなく、

本件利率改定は相当な範囲のものであったと認めることができます。(したがって、将来、市中金利が本件給付利率と同程度かこれより高くなった場合は、本件給付利率も高く改訂されることが予想される。)。

Yは、本件利率改定をするにあたり、

本件規程の復刻版を作成するなどしてこれを既受給者に送付したうえ、

N会定期支部総会後の会社説明会や事業場別説明会で既受給者に対し本件利率改定をするに至った経緯を説明して理解を求め、

これにより、Yは、既受給者の94.6%の同意を得たものであり、

本件利率改定の手続の相当性も認めることができます。

以上のとおり、本件改廃規定に基づく、本件利率改定は、

有効であり、その効力が生じたことが明らかです。

【関連判例】


「朝日新聞社(会社年金)事件と退職年金支給の停止」
「幸福銀行事件と退職年金の打切り」
「名古屋学院事件と独自年金制度の廃止」