住友軽金属工業(団体定期保険第2)事件と保険金の支払

(最三小判平18.4.11)

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使用者が保険金の受取人となっている団体定期保険において、

従業員の死亡等により使用者が多額の保険金を受領し、

遺族にはその保険金を支払わないことは許されるのでしょうか。

【事件の概要】


Yは、非鉄金属部品の製造販売等を業とする株式会社です。

Yは、生命保険会社(9社)との間で、

従業員を被保険者とする団体定期保険を締結していたが、

契約締結に当たり被保険者の同意として個々の従業員の同意を得ず、

従業員全員を組合員とする労働組合の合意しか得ていませんでした。

Yの従業員であるAら3名が在職中にそれぞれ疾病により死亡したことにより、

保険契約に基づきYが保険金を受領しました。

Yは、Aらの妻Xら3名に対しては、退職金や葬祭料等の支給を行いました。

Xらは、保険金全額に相当する金員の支払を求めたが、Yが拒否したため、

Xらは、Yに対し、YとAらとの労働関係において右保険契約による保険金の全部又は相当部分の支払の合意により、

Aらの死亡によりYが支払を受けた生命保険金については、

遺族であるXらに支払われるべきものであると主張したほか、

本件保険契約においてYを保険金受取人と指定する部分は公序良俗に反し無効である等と主張して、

保険金相当額の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


団体定期保険契約は、他人の死亡により保険金の支払を行うものであるところ、

このような他人を被保険者とする生命保険は、保険金目当ての犯罪を誘発したり、

いわゆる賭博保険として用いられるなどの危険性があることから、

商法は、これを防止する方策として、

被保険者の同意を要求することとする(674条1項)一方、

損害保険における630条、631条のように、

金銭的に評価の可能な被保険利益の存在を要求するとか、

保険金額が被保険利益の価額を超過することを許さないといった観点からの規制は採用していません。

本件で、Yが、被保険者である各従業員の死亡につき6000万円を超える高額の保険を掛けながら、

社内規定に基づく退職金等としてXらに実際に支払われたのは各1000万円前後にとどまること、

Yは、生命保険各社との関係を良好に保つことを主な動機として団体定期保険を締結し、

受領した配当金及び保険金を保険料の支払に充当するということを漫然と繰り返していたにすぎないことは、

前記のとおりであり、このような運用が、

従業員の福利厚生の拡充を図ることを目的とする団体定期保険の趣旨から逸脱したものであることは明らかです。

しかし、他人の生命の保険については、被保険者の同意を求めることでその適正な運用を図ることとし、

保険金額に見合う被保険利益の裏付けを要求するような規制を採用していない立法政策が採られていることにも照らすと、

死亡時給付金としてYから遺族に対して支払われた金額が、

本件各保険契約に基づく保険金の額の一部にとどまっていても、

被保険者の同意があることが前提である以上、

そのことから直ちに本件各保険契約の公序良俗違反をいうことは相当でなく、

本件で、他にこの公序良俗違反を基礎付けるに足りる事情は見当たりません。

また、Yが、団体定期保険の本来の目的に照らし、

保険金の全部又は一部を社内規定に基づく給付に充当すべきことを認識し、

そのことを本件各生命保険会社に確約していたからといって、

このことは、社内規定に基づく給付額を超えて死亡時給付金を遺族等に支払うことを約したなどと認めるべき根拠となるものではなく、

他に本件合意の成立を推認すべき事情は見当たりません。

むしろ、Yは、死亡従業員の遺族に支払うべき死亡時給付金が社内規定に基づく給付額の範囲内にとどまることは当然のことと考え、

そのような取扱いに終始していたことが明らかであり、

このような本件の事実関係の下で、Yが、社内規定に基づく給付額を超えて、

受領した保険金の全部又は一部を遺族に支払うことを、

明示的にはもとより、黙示的にも合意したと認めることはできないというべきです。

原審は、合理的な根拠に基づくことなく、

むしろその認定を妨げるべき事情が認められるにもかかわらず、

本件合意の成立を認めたものであり、その認定判断は経験則に反するものといわざるを得ません。

このような合意を根拠とするXらの請求は理由がありません。

【関連判例】


「文化シャッター事件と被保険者の同意」
「パリス観光事件と遺族への保険金の支払」