京都銀行事件と黙示の指示による労働時間

(大阪高判平13.6.28)

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始業時刻前にほぼすべての労働者が出勤し、

終業時刻後も大多数が残業を行うことが常態となっている場合、

これらの時間が使用者の黙示の指示による労働時間と認められるのでしょうか。

【事件の概要】


銀行Yの元従業員Xが、

銀行Yの就業規則では、始業時刻が午前8時35分、

終業時刻は週初、週末及び月末の各営業日が午後5時35分、

それ以外の日が午後5時であり、

休憩時間は午前11時から午後2時までの間において、

1時間業務に支障のないように交替して取るものとされていた(外出先の届出承認が必要)が、

実際には、男子行員にほとんどが8時過ぎまでに出勤し開店準備するなどしており、

週2回は開店準備終了後午後8時30分から約10分間朝礼が実施されており、

また男子行員については始業時刻前に事実上参加を義務付けられている融得会議が開催されることもあり、

さらに終業後も午後7時以降も多数の行員が業務に従事していました。

そこで、元従業員Xは、始業時刻前の準備作業、朝礼、融得会議、

昼の休憩時間、終業後の残業等につき時間外勤務手当の支払を求めて争いました。

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【判決の概要】


A支店においては、男子行員のほとんどが8時過ぎころまでに出勤していたこと、

銀行の業務としては金庫を開きキャビネットを運び出し、

それを各部署が受け取り、業務の準備がなされるところ、

金庫の開扉は、B支店長時代には8時15分以前になされ、

C支店長時代になってもその時刻ころにはなされていたと推認されること、

このような運用は、Yの支店において特殊なものではなかったこと、

また、A支店において開かれていた融得会議については、

前記認定のとおり男子行員については事実上出席が義務付けられている性質の会議と理解できることなどを総合すると、

YのA支店においては、午前8時15分から始業時刻までの間の勤務については、

Yの黙示の指示による労働時間と評価でき、

原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当です。

また、融得会議など会議が開催された日については、

それが8時15分以前に開催された場合には、

その開始時間以降の勤務はこれを時間外勤務と認めるのが相当です。

前記認定事実によれば、Xは、勤務先には午前8時過ぎ頃までに出勤することを常としていたことが認められるから、

手帳に記載のあるなしにかかわらず、上記基準に従い、

午前8時15分までには出勤して勤務に従事していたと推認するのが相当です。

そうすると、Xの始業時刻前の時間外勤務手当については、

本判決別紙記載の額について認めるのが相当です。

Yにおいて、昼の休憩時間については、

従業員が支店から外出できるのは行先を届け出て承認された場合に限られていたが、

それは顧客が来店したときや顧客から電話があったときの便宜のためであり、

そのことをもってYが従業員に休憩時間中に労務を遂行すべき職務上の義務を課していたとまではいえません。

そして、従業員が顧客の来訪や電話に対応することがあったとしても、

それだけで労働から解放されて自由に利用できる時間が60分間は保障されていなかったとはいい難いです。

前記認定事実によれば、Yの支店において、

従業員が昼の休憩時間を事実上、十分に確保できない場合があったのではないかと疑われるとしても、

それが常時のことであったまで認めるに十分な証拠はなく(〈証拠略〉もこの認定左右するものではない。)、

Yによって、従業員の昼の休憩時間が常に30分以下に制限されていたと断定することは困難です。

そして、Xが昼の休憩時間に業務をしたことがあったとしても、

その理由、また、その内容、程度については具体的に明らかではないというほかはなく、

昼の休憩時間についての時間外勤務に関するXの主張は採用することができません。

前記認定事実によれば、A支店においては、

多数の男子行員が午後7時以降も業務に従事していたこと、

このような実態は、Yの支店において特殊なものではなかったこと、

A支店では、前記認定にかかる文書(〈証拠略〉)が回覧され、

勤務終了予定時間を記載した予定表が作成されていたことなどからすると、

A支店においては、終業時刻後、少なくとも午後7時までの間の勤務については、

Yの黙示の指示による労働時間と評価でき、

原則として時間外勤務に該当すると認めるのが相当です。

また、それ以後の時間帯であっても、Yが時間外勤務を承認し、

手当を支払っている場合には、その時間も時間外勤務に該当するというべきです。

【まとめ】


8時15分から始業時刻までの間の勤務及び終業時刻後午後7時までの間の勤務については、

Yの黙示の指示による労働時間と評価できます。

さらに、融得会議についても、

8時15分前に開催された場合の開始時間以降の勤務は、

労働時間にあたります。

【関連判例】


「三菱重工業長崎造船所事件と労働時間」
「大星ビル管理事件と仮眠時間」
「大林ファシリティーズ事件と不活動時間」
「JR東日本(横浜土木技術センター)事件と1か月単位の変形労働時間制」